■クロノス大祭『二人の思いが重なる時』
時が刻まれて、鐘が鳴る。広場には金色の砂、細やかな雪、噴水からの輝く飛沫。
はぁ、と両手に白い息を吐く彼女の姿が、きらきらに見えるのは、きっとそれらのお陰ばかりじゃない。
「こんばんわ、来てくれてありがとう。どうしても今日、渡したい物があって……」
どきどきする。珍しく早口に饒舌気味なニコルに、ニャルラは首を傾げる。
「何でしょう〜?」
いつも通りの、フードの下のにやにやした笑い。
でも、そうして笑う貴女が──……。
これを、と差し出したのは、小さな箱。開いてみせると、ニャルラがその手元を覗き込んで、赤い瞳を真ん丸にした。
「え……これを〜私にですか〜?」
それは、星を抱いた藍色の石。ラピスラズリの、指輪。
うんとひとつ大きく肯いて、ニコルはニャルラの目を見つめる。
「受け取ってもらえるかな?」
静かに彼女の手を取って、指輪を通す。
深い藍色に、金砂と粉雪が移り込んで、彼女はじっと指輪を見て、それからゆっくりと視線をニコルに向けた。
「……ありがとうですよ。まさかこんな……本当、に……」
笑顔でそう告げようとしたニャルラの瞳に、けれど涙が滲む。声が震える。
「時の玉座が駄目でも、絶対諦めない。ニャルラさんとの事は本気だから」
クロノスメイズで得られなかった、永い時を共に過ごすための玉座。おいていくのも、おいていかれるのも、嫌だから。
「う、ん……」
小さくしゃくり上げながら、彼女はそれでも肯く。本当にありがとうと、もう一度呟いて、涙に濡れる瞳で彼を見上げる。
「時の玉座とかなくても、ずっと一緒だから、ね?」
「うん、ずっと傍にいるよ。だから泣かないで?」
彼女の涙をそっと拭って、ニコルは目を細めた。
「ニャルラ……大好きだ」
少しきょとんとした少女は、へにゃりと崩れそうな顔を慌ててぐしぐしと涙を両手で拭いて隠して、ひと呼吸。だってだって、いい笑顔で返したいから。
「……うん、私も、ニコルさんが大好き、です!」
どちらからともなく駆け寄って、抱き合って。
互いのぬくもりに、顔を埋めて。
「メリークロノス、ニャルラ」
「メリークロノス、ですよ」
小さく紡いだ言葉は、互いの間にだけ溶け込んで。
しばらくそうしていて、ふとニコルが彼女の肩を押して、身体を離す。
「えっと、ちょっと目を閉じてくれるかな?」
「え? ……ん」
目を丸くしながらも、大人しく従ってくれた彼女のフードを少し持ち上げて、ニコルは囁く。
「……必ず守るからね……」
触れるだけの、優しい口付け。
静かに時が流れて、そっと瞼を上げたニャルラが両手でフードを引き下げて、いつものにやにやした笑みを口許に乗せる。
「……ふふふ〜、約束ですからね〜? ……本当に〜ですよ〜?」
少し覗くその頬は、ほんのり朱色で。
つられたように、ニコルも微笑を返す。
「うん、約束だね」
心から、誓います。