■クロノス大祭『二人のホーリーナイト』
ラッドシティに訪れる金色のベールが空を覆い、年に一度しか開かぬ土地に心躍らせる冒険者や、幻想的な光景と寒さの中で、幸せを噛みしめるカップルの姿が町に溢れていた。クロノスバザールの賑わいもひとしおだ。ラッドシティの奇跡を評して、様々な飾り付けをして賑わいに華を添えている。
「マキーナあれ見て……綺麗なキャンドルナイトだねぇ♪」
普段は雑貨を扱う店の前は、様々な形をかたどったキャンドルに火が灯されていた。トリスタンはアルラウネをかたどったキャンドルを指さす。
「そうだね〜。ボク達もキャンドルを灯していく?」
マキーナはそう言うと、店の人に尋ねた。店員はキャンドルの見本を並べると、お祭りだからと、どれでも一つ選んで良いと言う。
「えっとマキーナ……これで良い?」
トリスタンはずらりと並べられた中から、星霊クロノスを模したキャンドルを選び取った。
「ボクもそれがいいなって。どうして分かるんだろうね?」
マキーナはトリスタンの手を取って、一緒にキャンドルを掲げた。店の人は二人の様子に幸せをお裾分けしてもらい、微笑みながら二人のキャンドルに火を灯した。
クロノスバザールを歩いていると、キャンドル片手に屋台を巡るカップルが目立っていた。屋台のおじさんおばさんはカップルをつかまえると、ちょこちょことおまけを付けてくれるのだった。
マキーナは一本多くもらった焼き串を頬張る。
「うま〜い! こっちも食べる?」
マキーナの串に、トリスタンが横から齧り付いた。トリスタンを美味しくてほっぺたを押さえる。
「マキーナと一緒だと……何でこんなに美味しいの」
トリスタンの問いかけに、マキーナは柔らかく微笑んで答えた。
「不思議だよね。ボクは、トリスタンが美味しそうに食べるからかな?」
まっすぐ答えるマキーナに、トリスタンも白い肌を赤らめながら、笑顔で答えた。
「それは……私もだよ」
二人はもっと近くに寄って歩みを進めていく。
お腹も一杯になり、歩き疲れたところで二人は時計塔へと昇っていく。小高い時計塔のテラスから、金の雨が間近に感じられた。
うっすらと降る雪と同じように、二人に触れては消える金の砂。お互いに何を話すでもなく、しばしその光景に触れていた。すると、伸ばした指がちょうど同じ方に伸びて、触れ合った。
あ、と声が漏れて、二人は目を合わせる。
触れあった指の温度が、手のひらの温度へ。お互いの温もりを求めて、体を寄せ合っていく。
「ねぇマキーナ……今幸せ?」
トリスタンがマキーナの胸の中に入り込んで囁いた。
「勿論だよ! トリスタンは?」
マキーナはトリスタンの香りに顔を埋めて囁き返した
「ボクも幸せ……愛してる♪」
二人はお互いの心を確かめ合うと、クロノス大祭の夜景を背景に、そっと唇を合わせるのだった。