■クロノス大祭『また会えたから』
――君を探している。『空はどこまでも続いてるなら果てまで行こうよ』
そう言って笑う、少女。赤銅色の艶やかな髪と、翡翠のような瞳。
――君を、探している。
アマツカグラを出て最初の冬。
クロノス大祭なる行事で賑わう街中。
その祭りを彩るように、雪も舞い降る。ひらり、はらりと……柔らかく。儚く。
(「ヒノカが好きそうだな」)
白い吐息の向こうに映る雪に、そんなことを思った。
ヒノカはアルトが探している少女だ。ふらっとアマツカグラを出た幼馴染みを追って、アルトもまたアマツカグラを出た。
そう、考えていたせいだろうか。
「……え」
意識せずアルトは声を漏らした。
視界に映る、ヒノカのような後ろ姿。見失わないように……消えないように、思わず腕をつかまえる。
「ふぇ?」
驚いたような声を上げた少女の髪は、赤銅色。振り返り、アルトを映すその瞳は翡翠のような緑色――。
見紛うはずがない。ずっと、探していた。追っていた。
本当にヒノカだと判り、アルトはそのまま少女を抱きしめる。
「……アルー!」
突然腕を掴まれ、続いて抱きしめられたことにびっくりした顔になっていたヒノカだったが、相手がアルトだと判ると満面の笑みを浮かべた。小さな腕で、抱きしめ返す。
満面の笑みのまま「久しぶり」と、特別とも思えない態度のヒノカに半分呆れつつも、変らない事に安心した。
本当は色々と言いたい事もあったのだが、変わらない……のんきとも言えるヒノカの様子にアルトの中のそれらの言葉はしぼんで苦笑になった。
アルトもまた「久しぶり」と笑い返してヒノカと額をあわせる。
触れあった額は、温かかった。確かに『此処』に『本当』にヒノカがいるのだと、実感できる。
「ヒノ一人で出てききたから、あ、センリョウとコバンも居たけど……でも、やっぱりちょっと寂しかったから――」
ヒノカは一生懸命言葉を紡ぐ。まっすぐに、アルトを見上げた。
「すごい、嬉しい」
そう言って、ヒノカは笑う。
旅立ったというヒノカの話を聞いて思わず追いかけたが……こうやって笑ってもらえたならいいか、とアルトは思った。
「再会できて……会えて、よかった」
思ったままを口にして、アルトもまた笑う。
そんなアルトのしみじみした本音にヒノカは「えへへ」と笑って、再びアルトに抱きついた。小さなヒノカを、アルトは抱き返す。互いにぎゅっと、抱き合う。
腕の中のヒノカの唇がアルトの頬にふんわりと触れた。
まるで今舞っている、雪のような淡いキスにアルトは一度目を見開く。
「……えへへ」
翡翠のような瞳がアルトを見る。……確かに今、『此処』で、アルトを映す。
また、会えたから。巡り会うことが、できたから。
消えないように……失わないように、アルトはヒノカを再び抱きしめた。