■クロノス大祭『これからもずっと……』
目の前に広がる湖には、空が映っている。見上げれば金の砂が降る空。見下ろせば、まるで砂がこちらへ舞い上がってくるような不思議な空。
この世のものとは思えない、幻のような場所に二人は居た。
感覚が鈍るように寒い。けれど、手の中のホットドリンクと、隣の人の温かさで、これが確かに夢ではないと分かる。身体はつい温もりを求めて、自然に二人で寄り添って歩いた。
湖の前は人気もない。砂の降る音さえ聞こえそうに静かだった。並んでその場に座り込む衣擦れと、二人の微かな息の音だけがする。
グラスに口を付けながら、マリナは目の前に広がる水鏡を眺めて、ほとんど同じ眺めの空を仰ぐ。今日、ここに誘ってくれたのはカイだった。
「キレイ、だね」
カイが、こんなにキレイなものを見せてくれた。今年の最後の綺麗な、星の天鏡。
ありがとうの代わりに零れたのは、たったそれだけの呟きだった。
ああ、とカイが小さく笑って答える。
一言だけでも、マリナの気持ちは伝わってくる。誘えてよかった。明日も、来年も、これからも、二人で同じものを、たくさん見ていきたいと思った。
カイも、ホットドリンクを一口飲む。マリナが飲んだものと同じものだ。二人で同じものを感じられるのは、幸せなことのような気がした。
右腕を少し伸ばしてみる。それだけで、マリナの肩を抱き寄せられるくらい近い距離。
おずおずと、けれど力強い腕に、マリナはちょっとだけ目を丸くしたが、されるままにされた。
カイが気恥ずかしそうに視線を逸らす。
「……大好きだぜ、マイマスター」
「……うん」
カイの声は、こちらを向いていない。きっとそっぽを向いているのだろう。それでも、言葉はちゃんと届いたから、マリナはカイの腕の中で微笑んだ。
「私も大好きだよ、カイ」
空から金の砂が降って、湖の底からは光るものが舞い上がる。
境目の縁に腰掛けて、二人でずっとそんな景色を見ていた。夢のようでも、確かにここにある温かさを感じながら。