■クロノス大祭『夢魔達のお祭り』
ここは賑わう屋台通り。その中でミラーネは、美味しい屋台飯に舌鼓を打っていた。
「うん、これも美味しいね♪」
ちなみに、これで10個目だということは……ここだけの内緒。
ミラーネの小腹(?)もすっかり満たされ、そろそろ戻ろうかと足を向けたところに。
「あれ、もしかして……?」
ミラーネは、人混みの中、見知った顔を見つけた。
いつも見ている普段着に、コートを羽織った姿。
間違いない。
「エリアっ!!」
「まあ、ミラーネさん」
手を振って応える彼女は、ミラーネと仲良しのエリア。
どうやら、エリアもこのお祭りに来ていたようだ。
ミラーネは、思わず両手を握って、ぶんぶん振ってしまう。エリアはそんなミラーネを嬉しそうに瞳を細めている。
「こんなとこで会えるなんて、驚いたよ」
「わたしもぉ〜ですわぁ。ミラーネさんは……食べ歩きですかぁ?」
ミラーネの口の端についたソースを拭って、エリアはそれを当てた。
「あらら、まだ付いてた? そう、ここの通りの屋台のものが美味しくってね。後で美味しい店、教えてあげるよっ!」
「ありがとうございますぅ」
「そういえば、エリアは何してたの?」
食べ歩きというわけでもなさそうだ。そうミラーネに問われると、エリアはばつの悪そうに苦笑を浮かべた。
「ちょっと気分転換ですぅ。……仕事がはかどらなくて」
そういえばと、ミラーネは思い出した。エリアの仕事は水瓶屋。アクエリオの新名物として、水瓶の利用法についての研究に取り組んでいたはずだ。
首をかしげるミラーネにエリアは続けた。
「その、成果が出なくて、副業の方がすっかり板についてしまったようなので……」
そう浮かべるエリアの微笑が、淋しげに映った。
「よし、決めたっ!!」
エリアの手を強く、励ますように握ると、妖艶な笑みを浮かべて。
「食べ歩きだけじゃない、お祭りの楽しみを教えてあげるよ」
そう、せっかくのお祭りの日。だからこそ、楽しまなくては。
ミラーネはそう考え、実行に移した。
「というわけで、レッツゴー!!」
二人の向かったのは、夢魔の安らぎ亭の個室であった。
淡い仄かな光。ここにある光は、ベッドの側にある揺らめく蝋燭の火だけであった。
二人は互いを暖めあうように、身を寄せ合って、このひと時を楽しんでいる。
(「この『遊び』が終わったら、相談に乗ろうかな。エリアさんの仕事のこと、ほとんど分からないから、まずそこから聞いて……」)
告白してくれたエリアのために、ミラーネはどうするべきか思案していたのだが。
「んっ……」
重ねられた唇。魅惑的な口付けに、ミラーネの思考は途切れた。
(「やーめた。今はこの『遊び』を目一杯エリアさんと楽しもう」)
相談は後でと決めて、今度はミラーネからエリアへと深い口付けを返すのであった。