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2人でクロノス大祭

孤月の黒狼・ウィルフレッド
黒耀の琴遣い・ルヴィーネ

■クロノス大祭『あの日、私は貴女に再び恋をした』

 金色の砂と、白色の雪が降る夜――時計塔の下。ちらほらとカップルが集う、微笑ましい光景がそこにはあった。
 その中の1組、ルヴィーネとウィルフレッドは、はぐれることの無い様に、手を繋いで祭りを楽しんでいた。それだけ、この祭りに集まる人は多い。
「さ、寒いですね……っ」
「寒いですか? では、こちらにどうぞ」
 夜風に当てられ、寒そうなルヴィーネをウィルフレッドはコートで優しく包む。彼女少し照れていたが、よほど寒かったのだろう。ルヴィーネは大人しく、コートに包まれていた。

「おや。仲の良いカップルだこと」
 不意に、知らない中年女性に声を掛けられたのは、ルヴィーネがウィルフレッドの温もりを満喫していた時の事だった。
「…………っ!」
 恥ずかしくなり、無言でルヴィーネはコートから脱出する。流石に、こんな姿をまじまじと他人に見られたくはない。
「あら、ごめんなさいねぇ……懐かしくなってしまったの」
「懐かしい、ですか?」
「ええ」
 ウィルフレッドの言葉に、女性はうっとりと時計塔を眺めた。ここに、誰かと来たことがあるのだろう。
「クロノス大祭がどんなお祭りか、知らないのかい?」
「……え? 何か、意味があるのですか?」
 ルヴィーネが首を傾げると、女性は「若いのに珍しいねぇ」と目を丸くして見せた。
「クロノス大祭は時計塔の下で、好きな人に告白するお祭りだよ……っと、邪魔をして悪かったね。あたしゃ旦那のところに戻るよ」
 2人を茶化すだけ茶化して、女性はどこかに行ってしまった。ウィルフレッドはよくわからない、と肩を竦めてみせる。
「行ってしまわれましたね……懐かしいって、何だったのでしょうか?」
「多分、旦那さんに告白されたんだと思いますよ、ウィルさん」
 それにしても、と、ルヴィーネは言葉を続けた。
「好きな人に告白するお祭りか……でも、もう昔すでに告白しましたね?」
 1度だけ復唱し、ルヴィーネは困ったように笑った。そんな姿に、ウィルフレッドは、優しく微笑んで見せた。
「じゃあ新しい1年を迎える象徴として、改めて君に告白するのはどうかな?」
 彼は改まってそう言い、ルヴィーネに手を差し伸べてみせた。

「大好きですよ、ルヴィ。黒耀の髪と夜空の色の瞳も素敵だし、何よりもその笑顔が1番愛しいです。ルヴィ、私の大切な人として、恋人として、ずっと傍にいてくれますか?」
 差し伸べられる手に、ルヴィーネは頬を赤く染めた。
「……はい」
 そして、小さくささやいてから、照れながらも少し緊張しながら、その手を取る。
「私を受け入れてありがとう、ルヴィ」
 ウィルフレッドは紫の瞳を細め、そっと、親愛なるルヴィーネの手に口付けを落とした。

 大きな鐘の音が、辺りに響き渡る――その時、時計塔の針はちょうど12時を指していたのであった。
イラストレーター名:椿千沙