■クロノス大祭『engagement ring』
ちらちらと舞う雪が街を真っ白に染め、金の砂が空が輝かせる。今日はクロノス大祭の日。レオとアデリシアも連れ添って、雪降る庭園の中その幻想的な光景を眺めていた。
瞳を細め、空を見上げるアデリシアに、レオがプレゼントだと小さな箱を渡す。
大切な人からの贈り物に頬を緩め、どきどきしながら開くと、中に入っていたのは銀色に光る指輪だった。
「本当にもらっていいんですかっ? 嬉しい……」
いたく感激した様子のアデリシアに、レオは優しく微笑む。
「勿論だよ、渡したくなかったら渡さないって」
彼女の喜ぶ顔が見たかったのだから、聞くまでも無い。当たり前のことだ。
それならば――もう少しだけ、わがままを言ってもいいですか?
答えを聞いたアデリシアが、少しはにかみながら口を開く。
「右手でいいから、はめてもらってもいいですか?」
ひらりと舞った雪が、差し出された彼女の右手に落ちる。
特別な日。
けれど、今日はきっと、それ以上に特別な日にすると決めていた。
「右手なんて言わずに、そっちにはめていいかな?」
差し出されたその手とは反対の左手を取って、その指輪がおさまる先は薬指。
アデリシアが目を丸くする。
左手の薬指。
これじゃあ、まるで――。
「婚約指輪みたいです」
「婚約指輪だよ」
不意に左手が持ちあげられ、そのまま指輪にふわりと落とされたキス。
指先にほんの少し触れた感触にどきんとして、それからレオの言葉がじんわりと胸にしみて、最後はたまらない嬉しさへと変わる。
抱えきれない愛しさは、暖かな雫となって瞳からこぼれ落ち、アデリシアの頬を濡らした。
「もう、かっこよすぎです」
お返しにこちらも背伸びして、唇に不意打ちのキスを落とした。
「こういう時くらいしっかりカッコつけなくちゃ、ね?」
照れくさそうに笑う彼の顔も、アデリシアにはとても輝いて見える。
「レオはいつだってかっこいいですよ?」
目尻にうっすらと涙をためながら、幸せそうに微笑む彼女がたまらなく愛らしいとレオも思う。
互いに想いあっているのなら、ふたりの交わす一番大切な約束はたったひとつしかない。
「俺の」
けれど胸が高鳴って、一瞬言葉に詰まる。
一呼吸置いて、レオは胸の奥からようやくその一言を絞り出した。
「俺のお嫁さんになってください」
それは、何よりも嬉しい贈り物。
けれど、とても信じられなくて。
頬に触れる雪の冷たさだけが、これは夢じゃないんだと語りかける。
……あぁ。もう、幸せすぎてうまく笑えない。
「……はい。これから私は永遠にあなたの妻です」
ぼろぼろと涙を流しながら、アデリシアは微笑んだ。
その笑顔を守っていけたらとレオは思い、彼女に言う。
ありがとう、ずっと幸せにするよ。
これでもかってくらいに。