■クロノス大祭『KISS=MISS』
空から、金色の砂と真っ白な雪が降り注ぐ。「綺麗やなあ……」
「ホントだな」
ベンチに座り、ウァッドとカタリは寄り添って空を見つめた。
黄金と純白の砂と雪がはらはらと舞う姿は、何ともロマンティックで幻想的だ。
ラッドシティの中心にそびえる巨大時計の方からは、美しい音楽が聞こえてくる。
クロノス大祭の今日、恋人達は皆、各々の相手と共にこの夢のような空を見ているのだろう。
大切な人と2人で過ごす、特別な夜。祭りのざわめきは遠く、まるで煌く金と白の世界に2人きりになったようだ。
(「不思議な魔法にかかったみたいや」)
カタリが雰囲気に浸りながら空に見惚れていると、その手にウァッドの手が重ねられた。
「なあ、カタリ」
ちらりと彼女の方を見ながら、ウァッドが話しかける。
「……ん、なんや」
「せっかくだから」
ウァッドが少し照れたような表情をしているように感じるのは、きっと気のせいではない。
「……あー、キスしないか?」
何となく、ムードに乗ったようにウァッドは言った。
カタリは一瞬きょとんとしたが、ん、と小さく頷く。
「仕方ないな、ウァッドがどうしてもって言うなら」
そんなふうに答えたカタリの顔も赤い。
カタリは元々照れ屋だが、2人とも、こういう空気に乗り慣れていないのだ。いつもは勢いと不意打ちである。
だけど今夜くらいは、柔らかで甘いこのムードに乗ってみてもいいだろう。こんなに美しい空に包まれた、祭りの夜なのだから。
ウァッドがカタリの肩を抱き、そっと顔を寄せる。触れ合った部分からぬくもりが伝わる。
「……」
「……」
近づく唇。それが重ねられようとした、その瞬間。
上空から、ウァッドの頭に勢い良く何かが落っこちてきた。
「ぐあっ!!」
もろに食らい、ウァッドがばたりと倒れる。
「ウァッド?!」
驚いたカタリがウァッドの頭の上を見ると、そこにはなんとべこの姿が。
「ぷ……あははは!」
思わずカタリが笑うと、ウァッドは恨めしそうな顔で頭を上げた。
「あーのーなあー!」
「まあまあ」
べこを抱き上げ、カタリはウァッドにぽふっとくっつく。
甘くて空想的な雰囲気も良いけれど、ちょっぴり騒がしいこんな感じも悪くない。カタリは楽しそうに笑ってウァッドを見上げた。
やれやれ、と呟きつつも、ウァッドも笑顔になる。金と白の粒が、2人の肩に触れて溶けた。
その後、キスをやり直したどうかは……2人だけの秘密だ。