■クロノス大祭『引っ張らないでメレンゲ』
暖炉が燃える暖かい部屋で、エンとロザリンドは二人並んでソファーに座り、向かい合っていた。今日は一年に一度だけのクロノス大祭、大切な人と過ごす日だ。
「エンさん、これ、クロノス大祭のプレゼントです」
ロザリンドが取り出したのはモスグリーンの綺麗な手編みマフラーだ。
ロザリンドがそれを手にエンの首へと腕をまわすと、恥ずかしそうにエンへとマフラーを巻いた。その姿にエンも気恥ずかしくなり、ロザリンドから目をそらしてしまう。
「……ありがとう」
感謝の言葉を口にするエン。ふと、ロザリンドへと視線を戻せば、マフラーを巻いている内にお互い顔を近づけ過ぎていた事に気が付いた。至近距離で目が合い、ロザリンドはただでさえ恥ずかしがっていた顔を真っ赤にさせると、身を引いてエンへと話を振った。
「初めて作ったんです。暖かい、ですか?」
「暖かいに決まってるだろ、君が編んでくれたものなんだから」
マフラーはふわふわとしていてとても暖かかった。初めてにしては綺麗に仕上がっているのは、彼女がエンの為に頑張った証である。エンはそんな彼女の気持ちが嬉しくてその言葉を口にしようとした、その時だ。
二人の背後に忍び寄る怪しい影が一つ、二人へと急接近していった。
その影がエンの真後ろにたどり着いた瞬間、突如としてエンの首が絞まり、エンはぐぇっとカエルのような声をあげた。ソファーの後ろに垂れていたマフラーがぐいっと引っ張られたのだ。
「く、くるしいっ!」
あわててマフラーと首の間へと手を差しこむも、楽にならない。ロザリンドが何事かとソファーの裏を覗くと、そこに居たのはロザリンドの飼い犬メレンゲであった。
もふもふの白いサモエドはエンが動く度にヒラヒラと舞うマフラーの端へとじゃれていたに過ぎなかったのだ。
メレンゲは無邪気に尻尾を振り新しい玩具が見つかったと喜んでいる。どうやら、これで大好きな主に遊んで貰いたいらしい。
「だ、駄目だよメレンゲ、もうちょっと待ってて……って、メレンゲには関係ないよね」
クロノス大祭なんて知った事ではないメレンゲは尚もマフラーにじゃれついている。
ぶるんぶるんと尻尾を振るメレンゲの頭を撫でながら、あわててエンのマフラーを緩めるロザリンド。
やっと解放されたエンは首をさすりながらロザリンドと顔を合わせると、お互い自然と笑みがこぼれた。
二人のクロノス大祭はいつも通り、メレンゲの無邪気な妨害で終わったのであった。