■クロノス大祭『お揃いで黄金と白の中』
「こんな空見たことないんだよ! すっごいきれい!」うさ耳の付いた、お揃いのファーケープを被った2人組の姿が、祭りに集まった大勢の人々の中にあった。
両手を広げてぐるぐると回るティファナの姿を、ノシュアトは優しげな笑みを浮かべて見つめていた――その手には、先程ティファナから貰った、アネモネのコサージュがついた編み籠と、鈴蘭の落ち着く香りがする可愛らしいサシェ。そのプレゼントを大切そうに鞄にしまい、ノシュアトはくすくすと笑った。
「うふふ、ファナうさぎちゃん、とっても可愛い♪」
ぴたり、とティファナの動きが止まった。彼女は少し照れたように鼻をかくと、「えへへ」と笑った。
「ノシュ姉だってすっごいかわいい! おそろい嬉しいな♪」
「あらん、ノシュアトちゃんも? ありがとう♪」
もう一度「えへへ」と笑い、ティファナはノシュアトの手を取った。
「手、繋いでくれるの? 温かいし、離しちゃうのが勿体ないわね〜」
「じゃ、もっともっとお祭り見て行こうよ! きっともっとわくわくするものがいっぱいだよ!」
ノシュアトの手を引き、ティファナは楽しそうに首を傾げる。彼女のフードはいつの間にか肩に落ち、せっかくのうさ耳が分かり辛くなってしまっていた。
「もっとお祭り見て回る? そうね、まだまだ楽しまなくちゃ……って、ファナのうさ耳落ちちゃってるわよ」
穏やかに笑いながら、ノシュアトはティファナの肩でだらんとしていたフードを頭に被せてやった。
「ありがと! さ、早く行こうよ!!」
どうも好奇心が勝ってしまうのか、どうしてもティファナは急ごうとしてしまう。その様子はまるで、あの有名な『時計うさぎ』のようにも見えた。
「あらんファナったら…そんなに急がなくても、お祭りは逃げないわよん?」
「だって、少しでもたくさんお祭り楽しみたいんだもん!」
再びぱさり、とティファナのフードが落ちてしまった。無邪気な彼女の頭の上でフードがその姿を保ち続けるのは、どうやら不可能らしい――ノシュアトは思わず、彼女の勢いに身を任せていた。
「やっぱりファナは可愛いわ♪ 微笑ましくなっちゃう」
人込みの中をすり抜け、ティファナは進んでいく。彼女の右手は、しっかりとノシュアトの左手を握っていた。ぎゅ、とノシュアトがその手を握り返す。
「……あらん?」
ティファナに手を引かれながら、ふと、ノシュアトは空を見上げた――降り注ぐのは、白い雪と金の砂、鮮やかな花弁――彼女はうっとりと、その光景を眺めていた。
「確かに綺麗……1年に1度なのが残念なくらい。ずっと降ってればいいのにね?」
ノシュアトが空を見ているのに気が付いたのか、ティファナが足を止めた。彼女も一緒に、空を見上げ始めた。
「ねえ……ファナ、これからもずっと一緒に素敵な景色を見ましょうねん♪」
「うん♪」
顔を見合わせ、笑った後……2人の時計うさぎは、仲良く人込みの中に消えて行った。