■クロノス大祭『mon chouchou』
「盛大にパーティをするのも良いけど、二人きりも気楽で良いわねぇ」祭りの夜。マノは、恋人であるギィの硝子店にてささやかなパーティーを開いていた。
窓のステンドグラス、天井から吊り下げられた色とりどりのランプ……。
色彩豊かな淡い灯りに照らされた、あたたかい部屋の中。
ケーキとワインが置かれたアンティークな丸テーブルに向かい合い、ギィとマノは座っている。
「――なぁに?」
マノがケーキを食べていると、なにやら視線を感じる。
ふと顔を上げると、頬杖ついてじっと見つめてきているギィの姿。
目が合えば、悪びれることなく笑顔を浮かべてきたりなんかする。
「ドレス姿があんまり綺麗だったんで見惚れてたよ。良く似合ってる」
「ケーキ、食べないなら全部貰っちゃうわよ」
素直すぎる物言いに照れてしまったマノは、恥ずかしさをごまかすように話題をそらす。
「そうだな……君が食べさせてくれるのなら、是非とも?」
対するギィはさらに切り込んでくる。
悪戯っぽく片目を瞑っておねだりなんかして。
「まったく……」
「おいしい」
かなわないと苦笑しつつ、フォークでケーキを切り取り口元へ。
雛鳥のように口を開いて受け取ったギィは、子供みたいに満面の笑顔を浮かべてみせる。
「……雪が止むのが名残惜しいわね」
微笑みかけるマノの表情には、少しばかりの寂しさが混じっている。
居心地がいいのは、ここが暖かな部屋の中だからというだけではない。
(「貴方のそばがわたしの落ち着ける場所になったのは、いつからだったかしら……」)
「雪が止んでも、そばにいるよ」
マノの言葉にギィが微笑みを返す。
(「君といると、硝子を通した灯りがこんなにも暖かく見える事に気付いたのはいつだったかな」)
お互いを大事に思うなら。この関係は、『あたたかさ』は、ずっと続いていくだろう。
降り始めた外の雪をよそに、二人の『居場所』は、いつまでも穏やかなぬくもりに包まれているのだった。