■クロノス大祭『素直になれない二人』
きらきらした街の光。きゃぴきゃぴと通り過ぎていくカップルの顔を見て、馬鹿じゃないかと思うフレスティアナ。そわそわと注意深く、周囲を見回していた。
去年のクロノス大祭では、待ち合わせ場所でジャックに雪玉を投げつけられたからだ。今年はそんなことされてはたまらないと、どこから来られても良いように、周囲を見回している。
しかし思い返すほどに、そんな理不尽なジャックのことに腹が立ってくる。
(「なんでこんなやつと一緒にいるんだろう……」)
腹立ちまぎれに、心の中で首を捻る。
(「一緒にいるのは嫌いじゃないからだと思う。私は嫌いだったら嫌いってはっきり言う。あいつは嫌いじゃない。うん」)
と、フレスティアナが考え込んでいる内に、目の前に男が立ちつくしていた。フレスティアナの顔をじっと見ているのは、ジャックその人だ。
「……お前の暇な休日を有効に使ってやってるんだ。光栄に思えよ」
顔を合わせて早々、いきなり馬鹿な言葉を投げつけてきた。
「はぁ!? それはこっちの台詞よ!」
言い返すフレスティアナに、ジャックは二倍にも十倍にも言葉を加えて反撃をする。それに対してフレスティアナも倍にしてと……お互いに罵詈雑言を吐いては、並んで歩き始める。
ふと、ジャックが肩を擦れ違わせる人の笑顔に目が行った。何であんな表情になれないんだろうと、ジャックは心の中で考える。ポケットの中で握り締めていた箱を、コロリと転がす。フレスティアナがジャックの肘を小突く。
「ちょっと、何か言いなさいよ」
すると、ジャックは急に振り返る。右手を振りかぶったかと思うと何かを投げつけてきた。
「何するのよ!」
咄嗟に顔をかばって両腕を出す。雪玉を投げつけられた光景がフラッシュバックして、声を荒げた。
しかし、投げつけられた物は腕に当たると、カラコロ、と軽い音を立てて跳ねるだけだった。宙に跳ねたそれを受け止めると、それが妙に綺麗な小箱であることに気づく。そして不思議に思って開けると、中には指輪が光っていた。
ぼんっと全身が爆発したのかと、そんな錯覚をフレスティアナはした。しかし、全て平常通り。ただ、目の前にジャックからの指輪が乗っかっているだけだった。
そうして指輪を見つめて黙りこんだフレスティアナに、ジャックは居ても立ってもいられず、悪態をつき続ける。
「はっ! だっせー面!」
しかし、フレスティアナは顔をあげない。
「別に深い意味なんかねぇよ! 勘違いするなよ!」
しかし、フレスティアナは指輪から目を逸らさない。
「バーカバーカ!」
しかし、フレスティアナは反撃してこない。
ジャックは真っ赤になって、どうして良いか分からなくなった。そして、くるりと背を向けると、一目散に走り出して逃げることにしてしまう。
それに気づいたフレスティアナは、
(「あいつはどう責任とるつもりなんだ」)
と、顔を真っ赤にして立ち尽くしているのだった。