■クロノス大祭『金沙白花 -願いの積もる夜-』
窓の外では、未だ金色の光が降り注いでいる。雪が降っているから、部屋を一歩出れば肌を刺すように寒い。けれど、扉を隔てたこちら側は暖かかった。二人で暮らしている部屋だ。
クッションに乗っかって、ラグを転がるオニクスはさながら寛いだ猫だ。その背中をそっと撫でながら、ヴフマルはとりとめなく今日の出来事を話す。
綺麗だった景色、楽しかった催し事。頭上から降る笑う声を、頬杖をつきながらオニクスは大人しく聞いている。背中を撫でていた指が髪へと移ったのが分かって、ふと表情を見上げたらやっぱり笑っていた。きっと楽しかったのだろう。ヴフマルはよく笑う。自分とは全然違った。けれど、こんな風に触られても少しも嫌な気はしない。
温もりを求めるように頭を撫でていたヴフマルの指が、ふと髪を飾るものに触れた。自然と言葉が口をついて出る。
「ちゃんと金砂つきました?」
楽しいことはたくさんあったけれど、一番オニクスと話したいのはやっぱりこのことだった。
髪を梳く指が、白い紙花にかさりと触れる。その音に、オニクスも視線だけ持ち上げて紙花を確認しようとした。ヴフマルの顔しか見えない。
お互いの願いが叶うようにと、贈り合った紙花。
オニクスからヴフマルへ、薄紅の花。ヴフマルからは、白い花。
紙で作った花に、願い事を書いたリボンを巻く。その花に金色の砂が触れれば、書いた願い事が叶うというおまじない。
「……金砂って、ついても溶けるんだっけ」
思い当たらなくて、オニクスが小さく首を傾げる。どうだったかな、とヴフマルも考える声で白い紙花を指でなぞった。
オニクスの視線が、窓の外、白と金の景色に移る。
「あれだけ街を歩いてたんだから、ついてて欲しいけどな」
2人分の願いを乗せてたんだから。
お互いの願いが叶うようにと願った。
どうか幸せが長く続きますように。
浅黒い指が、もう一度白い花を探るようにそっと揺らす。その花弁の端で、金色の光が瞬いたのがヴフマルには見えた。