■クロノス大祭『優しいお伽噺』
「やっぱ多いなぁ……人……」「年に1度しか無い日ですから。迷子にならないようにしましょ、ね」
ごったがえす人ごみの中、少し表情をひきつらせながらぼやくサクノスを、シヲンは笑顔でなだめる。
二人がやってきたのは、『時刻がピッタリの時間を示すと動き出す』という時計塔を見るためだった。
しかし、大きな祭りだけあって周りは人だらけだ。
ちょうどいい場所を見つけ、大時計が動きだすのを今か今かとじっと待つふたり。
夜も更けてきているので、だいぶ冷え込んできた。
サクノスは、シヲンの身を気遣って声をかける。
「寒くないかシヲンちゃん? 疲れたらちゃんと言うんだぞ?」
「ちょっと寒いですけど、楽しみを考えるとぜんぜん気にならないですね!」
シヲンは、やはりにっこりと笑顔で答えた。
そしてついに、待ちに待った時間がやってきた。
かちり。
針が真上を指したその瞬間……。
かろやかな、それでいて澄んだおごそかな音色をあたりに響かせながら、大時計の仕掛けがゆったりと動き出す。
「うわあ……これは想像以上だ……」
「わ、わ、わ……凄い。綺麗で、とっても可愛らしいです、ね」
壮大で不思議な光景に、ふたりは目を奪われる。
しばらくの間大時計の動きに見入っていたが、サクノスがふいにシヲンの方を向く。
「なぁ、もう少し……前に行ってみないか?」
サクノスはそう言うと、そっと微笑んでシヲンに手を差し出した。
シヲンも、微笑を返してその手をとる。
サクノスはシヲンの手を引いて、人ごみの中をかき分けながら時計塔の方へと近づいていった。
近くまで来るとひときわ大きい。
塔を見上げ、ふたりして一緒に感嘆した後、顔を見合わせ、お互い満面の笑みを浮かべる。
つないだままの手から、お互いの手の暖かさを感じていた。
これからも一緒に笑いあえる、優しく幸せな日がある事を。
今日という日に、素敵な終焉……。
『ハッピーエンド』を迎えられますように。
そう願いながら。