■クロノス大祭『果て色の花』
祭りの宵口。こんな日に、当たり前の眠りに就き、いつもと変わらぬ目覚めを享受するのはもったいないだろう。イツカは空を見上げてセラの元へと向かった。イツカが外からセラを呼ぶ。顔をのぞかせたセラに、イツカは挨拶も交わさず空を指さす。つられて見上げるセラの鼻に、金色の砂が舞い降りた。
イツカが笑顔で待っている。それだけで十分だ。
セラは飛び出し、イツカの隣へ駆け寄る。
「宵歩きは好きです」
セラが手短に喜びを述べ、二人はゆっくり歩き出した。
降り注ぐ金色と舞い降りる粉雪が、艶やかな二人の装いに映えていた。セラの歩調で道を進み、細い足首で粉を蹴り上げながら、しゃなりしゃなりと街を進んでいく。
賑わう屋台、うねる人並みが、忙しなく、騒がしく、二人を取り囲む。
しかし、イツカもセラも二人だけの時間を感じ取っていた。
ただ真っ直ぐに歩んでいくこの道が、永遠に続くと信じながら。
不意にセラが立ち止まり、イツカの顔を見上げた。今度はイツカがつられて空を見上げる。
降り続ける金色の砂と純白の雪を眺めた。何も語らないけれど、一年前に見た永遠の森で見た氷楼の雪が思い返される。二人で過ごした一年の思い出が蘇ると共に、これからの一年へ思いを馳せる。
長いようで短いような、短いようで長いような。この道はどこまで続いているのだろうかと、今は灰色の石と紫煙にまみれた場所にいる。
続く街道に鐘の音が響いた。喧噪を破り、終わりが近づいていることを報せる。時間は常に有限だ。
イツカとセラは惜しむように、互いに手を伸ばして聖夜の証を掴み取った。掌に触れる金の砂。そして雪の華。手を開けば何も残っておらず、そこはわずかに濡れていた。
憂いを帯びてその雫を見つめる。イツカをそんなセラが溜まらなく愛おしかった。セラの体温を宿した暖かな雫は、大地に染み入るような跡を残して、掌に染みを作っていた。
「熱が花のような君に届いて、いつか開くと良いことだ」
と。イツカは言葉が生まれた。
イツカの言葉にセラは、その暖かな雫をぎゅっと握りしめた。
「暖かな雫が心の蕾に注ぎきった時、冬の陰りを掃う花が咲き綻ぶのでしょう」
そして、再び開いた手で、そっとイツカの空いた手を捕まえた。
「――叶うならば金砂よりなお鮮やかな貴方の傍で」