■クロノス大祭『きっとそれは幸せのかたち。』
街灯がユイの艶髪を照らす。ちらちらと降る雪が薄っすらと頭の上に乗り、時折ぱさりと払った。それに混じって、クロノス大祭特有の金色の砂が一緒に弾かれ、街灯の明かりにきらきらと輝いていた。
「ご、ごめんなさいっ」
道行く多くのカップルの間を抜けて、パトゥーシャがユイの前に現れた。ユイは優しく微笑む。
「ん? 大丈夫よ、謝らないで。今日は二人で思いっきり楽しみましょうね。ああ、そうそうその前に……」
息を切らしたパトゥーシャへ、ポケットから可愛らしい小箱を取り出した。パトゥーシャは息を整えて、両手でそれを受け取る。
「あ、ありがとうっ! 開けて良い?」
「もちろん」
早速受け取ると中身を確認する。中からは常緑樹の葉の形を象った翡翠の髪飾りが現れた。パトゥーシャはわぁと歓声をあげ、しばらくじっと見入った。そのパトゥーシャの見つめる瞳は同じエメラルドグリーンに輝いている。
小箱から、そっと大事そうに取り上げると、パトゥーシャは髪留めを着けた。頭を少しかがめ、ユイが見えるように尋ねる。
「ど、どうでしょうか……?」
「うん、やっぱり素敵。良く似合うわ」
パトゥーシャはユイに褒められて満面の笑みを浮かべると、同じようにポケットから小箱を出して、ユイへ差し出した。
「それでは私からもっ」
ユイもすぐに中を確認する。箱に納められていたのは、同じように葉の形を象った耳飾り。同封されている証書に『常磐の耳飾り』と名前が書かれていた。
ユイは耳へつけると、パトゥーシャが見えるように手の平をあてがった。
「わ……すごく似合うっ、とっても素敵ー!」
想像以上にぴったりのユイの姿に、パトゥーシャは飛び跳ねるようにはしゃいだ。
「わたしの大好きな木の葉のイヤリングだったから、ユイさんに似合って嬉しいなっ」
歌うように褒めちぎるパトゥーシャに、ユイも少し気取ってみる。
「似合う? 有り難う。私達同じ緑色ね?」
ほんのり赤くなりながら、自慢げに僅かに顎を挙げて誇る。
「それでは出掛けましょうか」
ユイが上機嫌のまま言うと、パトゥーシャが舞い上がった勢いでユイの腕に飛びついた。
「行きましょうー!」
パトゥーシャがぐいぐいと歩き出す。
腕にはパトゥーシャの温もりを直に感じて、普段なら恥ずかしいところだけれど、
(「パティさんと、これからもこうしていたいわ」)
そう思いながら、幸せってきっとこういうものだと、華やかに装飾のされた街道へ、歩き始めるのであった。