■クロノス大祭『新しき調にのせて、君を歌はむ』
「随分、遠くまで来たね」「本当に、遠くまで、来た、のね……」
ベンチに座り、テオとソフィーはほっと一息付いた。エルフヘイムを旅立ち、ラッドシティまでやって来た。
この町でも冬の寒さは変わらないんだね、と。テオはソフィーの頭を撫でる――空からは、金と白が舞い降りてくる、ささやかかもしれないけど、優しく穏やかな、大切な時間。
「テオ……?」
「何だい? ソフィー」
ふとソフィーに話しかけられ、テオは彼女の顔を覗き込んだ。その表情は何故か、酷く不安げに見える。
「……あのね、何だか、まだ実感が、わかないの」
「そっか」
「これは夢で、目が覚めたら、寒くて暗い、部屋に、わたしは居るんじゃないかって……」
ソフィーはハーフエルフだ。彼女は生まれてからずっと、暗い部屋にいつも閉じ込められていた。だからか、彼女はいつも何かに怯えていた。
「テオ……今日って、クロノス大祭って、いうんだっけ?」
「うん、そうだよ」
「エルフヘイムにも、お祭り、あったよね……?」
リヴァイアサン大祭のことだな、とテオは思った。そういえば彼女は、お祭りというものに参加したことがない筈だ。
「テオは、星霊リヴァイアサン、見たこと、あるの……?」
「あ、うん。あるよ……名物だしね」
「描いて、描いて?」
唐突にソフィーにスケッチブックを渡されてしまった。
「えっと、その……絵は苦手なんだけどなぁ……」
苦笑いしつつも、テオはソフィーのリクエストに答えることにした。きらきらした彼女の瞳を見てしまうと、どうしても拒めなかった。
「ねえ、ソフィー?」
手を動かしながら、テオはソフィーの名を呼んだ。
「もう、ソフィーはお祭りで遊べなかった去年の冬とは全然違う。もう僕たちを縛る戒律はないし、エルフヘイムを旅立ってから、今まででソフィーにも沢山の仲間や友達が出来たんだ」
「……」
少しでも、彼女の支えになれたら、とテオは願った。一度手を止め、暖かい飲み物をソフィーに手渡す。それから、彼は再びスケッチブックと向かい合った。
「それに、支えになれているかは分からないけど僕もいる……だから、これからは思う存分楽しんでいいんだよ」
どこか不安げだった、ソフィーの表情が少し和らいだ。そんな気がした。
「立ち止まっては、いられない、ね……いっぱい、沢山、歩いて。悪い夢をやっつけなきゃ」
にこ、とソフィーは笑った。少女らしい、穏やかな表情。つられるように、テオも笑っていた。
「まだまだ、頑張ろ?」
「それが大事だよ……よし、出来た、けど……」
しかし、テオの表情はすぐに硬くなってしまった。その理由は、言うまでもないであろう。
「わあ! 星霊リヴァイアサンって、凄いね!」
「ち、違う……リヴァイアサンはもっと、こう……神々しいというか、その……」
まだまだ、ソフィーは世界というものを知らない――とりあえず、まずは正しく星霊リヴァイアサンを教えることから始めようか。