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2人でクロノス大祭

扇の魔曲使い・ヴィーネ
深雪の白梟・リヴィ

■クロノス大祭『彩想華〜花に込めた願い〜』

 藍色の髪を飾るのは、冬を忘れた春の花。繊細なレースに包まれて、息吹にたゆたい幸せを祈る。
 紫、白、緋、黄。乙女の額に掲げられた花冠には、色とりどりの微笑を添えて。
 ヴィーネに冠を捧げたリヴィは、一歩を下がって率直な感想を述べた。
「うん、ヴィーちゃんによく似合ってるよ」
 その言葉にはにかみを誘われて、ヴィーネはしかし取り繕わない。そして、今日を共にしてくれるお礼にと、紙袋を取り出した。
「リヴィちゃんには、これを。私の手作りだから、ちょっと見た目悪いかもしれないけど……」
 受け取るリヴィの表情が、見る間に明るく輝きだす。袋の中にあったのは、ヴィーネお手製の花の腕輪だ。
 控えめにきらめくビーズは、リヴィの纏う花々に調和して、夢見心地に衣裳を飾った。

 ラッドシティの石畳を、リヴィとヴィーネが手を繋いで歩いていく。金の砂、白の雪にしばし見惚れ、その内どちらからともなく、大祭の賑やかさへとパートナーを連れていった。
 揃いのミュールは軽やかに、翻すドレスは淑やかに。今はリヴィが前に立ってヴィーネを導き、仲の良い姉妹のように暖かな表情で、露店巡りを楽しんでいる。
「なら、リヴィがお姉ちゃんで、ヴィーちゃんが妹かなあ」
「と、年上は私ですっ!」
 などと、眉を立てて先頭に出るのも愛らしい。
 行く先々には、素敵な小物や天然石が所狭しと並べられていた。ヴィーネの注視はリヴィの財布の紐を大いに緩ませ、ついでに揃いのアクセサリーを手に入れることを忘れない。

 買物を終えて一息、かわいい兎饅頭で心和ませる。菓子屋の軒先に席を設けて、一口、一口、ゆっくりと頬張った。
 柔らかな生地の奥の、湯気の立つ甘い餡に、二人は表情をほころばせ、おいしいね、と視線を交し合う。
「こうやって、ずっとお祭りを楽しむのもいいけれど」
「せっかくのこの大祭を、特別なものへとするために」
 指先を手布で拭い、今度は横並びで歩みだす。上り坂の天辺にあって、その中でも一等高い建物を探し、あの時計があるバルコニーを、とリヴィが指差したとき、砂と雪は一層強く、美しく降りはじめた。
 上り詰めて見下ろせば、遠くまで広がる綺麗な町並みが、風の向こう、白と金に霞んで広がっている。
 風にさらわれる前に、冬にしおれる前に、ヴィーネは花冠を、リヴィは花の腕輪を、それぞれ外して胸に抱いた。
「願いましょう。これからの幸せを、この花冠に」
「祈りましょう。続いていく幸せを、この花の腕輪に」
 そんな芝居めいた台詞に、二人は顔を合わせて照れ笑いを交換する。
「それじゃあ、一緒に投げましょうか」
「少しもったいない気もするけど、大丈夫だよね、きっと」
 そして、一斉に花束を空へ投げ上げる。手放すのでも、捨てるのでもない。またいつか、手元に戻ってくると信じているからこその、誓いの儀式なのだ。
 二人が忘れない限り、また、未来は巡り帰ってくるはずだから。
イラストレーター名:秋日子