■クロノス大祭『金銀の雪が降り注ぐ中で』
「わぁ……すごくきれいですね……」今日は年に1度のクロノス大祭。街中お祭りムードに包まれ、色とりどりの灯りで建物や街路樹を飾り立てていた。その華やかな灯りの中、純白の雪と金色の砂が降り注ぐ。金の砂のせいで雪が輝きながら舞っているようだ。
その幻想的な光景は買い物帰りのプリュムの目を奪う。それをゆっくり見たいプリュムの足は普段よりゆっくり歩いていた。時折、はぁっと両手に白い息を吹きかけ、手をこすり合わせて。
その隣を歩くチカは、厚着で完全防備というわけでもないのに、特に寒そうな様子もない。プリュムの歩調に合わせてゆっくりと歩いている。
「……っくしゅ……」
「……プリュム、風邪引くぞ」
プリュムが小さなくしゃみをすると、表情を変えぬままチカが口を開いた。
「ん、で、でも……もうちょっと見ていたいです……」
チカを上目遣いで見上げて遠慮がちに訴えるプリュム。
寒いし風邪を引きたくないのは勿論なのだが、年に1度しか見られないこの幻想的な光景をじっくり見たい。そんな自分の我侭に合わせてゆっくり歩いてくれるチカを頼もしく思いつつ。
「はー……しょうがねーな」
――ふわり。
「へっ!? あ、えっと……チカ?」
溜息混じりに一言呟いたチカが後ろからプリュムを抱きしめた。
(「チカあったかい……けど、だからといって、この体勢はどうなんですか……?」)
「……もうちょっと見てたいんだろ?」
チカは基礎体温が高く、年中――それこそ雪の降るこの季節であろうと、薄着で平気なのである。自分の体温をプリュムに分ければ少しは寒さも和らげる事ができるだろう、という思いつきだったようだ。
「…………ぅ、ぅー……はい」
プリュムは少し照れて動揺しながら、小さく頷く。対するチカは顔色一つ変わっていない。元来チカは表情があまり変わらない性質なのだ。
「……ありがとうございます」
少しドキドキしながら見る幻想的な光景はまた少し違って見えて――。