■クロノス大祭『包み込んで、包み込まれて』
晴れから曇りへ、雨から雪へ。空の表情はいくつもあって、それらは日々移り変わってゆく。
そして時には、もっと変わった顔を見せることもあるようで……。
遠くから聞こえてくる祭りの喧騒を感じながら、ティナとアニスは2人並んで町外れの高台から空を見上げる。
「不思議ですね〜」
「本当に、そうですね」
そう、興味深げにアニスが呟くと、彼女の隣で同じように空を見上げてティナも頷きを返す。
2人が見上げた先に広がるのは、白と金に彩られた冬の空。
白は冬の証の雪の白。
金は年に1度この日にだけ降る金の砂。
空から降る2つの色は風に乗って自由に舞い踊り……そして、手に触れれば一瞬で姿を失い消えてゆく。
今日、この地でのみ見ることができる光景に、2人はしばし無言で空を見上げて……。
そうして、
「……アニス」
「きゃ!?」
飽きることなく空を見上げていたアニスを、ティナは後ろから柔らかく抱きしめて自分のコートの中へと包み込む。
ふいに自分を包み込んだ柔らかな温もりに、アニスは真っ赤になって慌てて……。
しばらく迷った後に、ふっと力を抜いてティナに身を寄せる。
急に抱きしめられたのは驚いたし、恥ずかしかったけれど……。
こうしてティナに包まれるのは、それ以上に嬉しくて幸せだったから。
「……ふふっ♪」
自分の腕の中で次々に変化していくアニスの表情を、くすくすと微笑みながらティナは見つめる。
彼女の胸元に揺れるのは、雪のように白く輝く真珠のブローチ。
ブローチから感じる暖かさと腕から感じる暖かさと。2つの形で感じるアニスの暖かさに自分の身も心も温まってゆくのを感じながら、ティナはアニスにそっと頬を寄せて彼女の頭を優しくなでる。
「離しませんわ……♪」
耳元で囁くティナの声に、アニスはくすぐったそうに身を捩りながら顔を赤らめて。
そして、自分を包むティナの手にそっと左手を添える。
その手に光るのは、2匹の猫をあしらったブレスレット。
大切なティナからのプレゼントを、愛おしげに右手で優しく撫でると、アニスは顔を上げて、
「離さないでくださいな♪」
そう、笑顔で応えるのだった。