■クロノス大祭『聖夜に初めてのキスを』
「食べた食べた!」ノドカはベッドに飛び込んだ。膨らんだお腹に幸福な満腹感は抱いていた。外から、降り積もった雪が、どさりと落ちる音が聞こえて、外は嘘のように静まり返っていた。ノドカはゆっくりとベッドの上に体を起こした。
クシロもコートを脱いで、椅子の背にかけた。そのまま椅子に腰掛けると、しばらくは立ち上がれないとばかりに足を投げ出した。
「本当、美味しかったね」
「うん。ケーキに、ケーキに……」
「それにチキンだね」
食べ物の話ばかり出てくるのはクロノス大祭の市場の所為でもあるだろう。けっしてノドカの所為ではない。
ノドカがほっぺをコロコロ転がしながら笑っていると、クシロは投げ出していた足を戻して、自然にベッドへと歩いていった。そして、
「えいっ♪」
何も言わずにノドカへ飛びついた。
「わわっ……!」
不意打ちをくらったノドカは、そのままベッドの上に倒される。
「えっ……と、クシロ……?」
ノドカは突然のことに目を白黒させながら、目と鼻の先にあるクシロの顔に、徐々に顔が赤くなっていく。そして、クシロはノドカの目を見つめるばかりで何も答えなかった。
そのうち、クシロはノドカの手を取り、そっと指を絡めた。
「う、うん……その……はい……」
ノドカも顔を真っ赤にさせながら、クシロの指をきゅっと握り返す。指先に電気が走ったようだった。
それを合図に、クシロの瞳が近づいてくる。そして、お互いの吐息を感じる距離まで近づくと、クシロはぴたりと止まった。優しく微笑むとゆっくり唇を動かす。
「ノドカ……大好きだよ……♪」
囁くような声に、ノドカの心臓がどきんと大きく脈打った。
「クシロくん……」
ノドカは、わたしも大好きだよ、と言いたかったのに、言葉が出てこなかった。
しかし、クシロは名前を呼ばれただけで頷いた。そしてゆっくりと顔を近づけていく。ノドカは最後までクシロの瞳を見つめながら、そっと、その瞼を閉じる。
瞬間、唇にクシロの感触を感じた。それは冷たいような熱いような、ぴりぴりと鋭い感覚。けれどその後には、溶けるような甘い感触。大きく脈打った心臓が、最大まで大きくなって、そのまま止まってしまったかのような一瞬だった。体の芯が熱くて、全ての神経がクシロを感じているようだった。
「んっ……はっ……」
一体どれだけそうしていたのか。クシロがゆっくりと離れた。ノドカもゆっくりと瞼を開いたが、すぐには焦点が定まらなかった。息をするのも忘れていたのか、頭が呆然となっている。思い出したように二人は息を大きく吸い込む。すると、お互いの匂いを驚くほど濃く感じられた。
「クシロくん……大好き」
そうして、ノドカはようやく言葉にすることができた。それを聞いたクシロは、なんだか照れくさくなりながら、再びノドカを抱きしめた。
「うん……大好きだよ」
二人はお互いの鼓動を感じながら、聖なる夜に絆を深めたのであった。