■クロノス大祭『ホワイトクロノス』
「馬鹿! 店んところで待ってろって言ってたろ。何やってんだ」クロノス大祭の夜。暗い雪空から降る雪は、石畳にも積もっていた。
地面に残った雪を踏んで駆け寄りながら、アミンスチカは声をあげる。
ララは、彼の目指す先で手袋の指を擦り合わせて温めている。聞こえた声に、ふと目線を持ち上げた。
怒ったようなアミンスチカの様子も、気にはならない。自分を心配してくれる気持ちが嬉しかった。目の前まで来たアミンスチカが、自分も寒いに違いないのに、素早くマフラーを解いてララの首に掛けてくれる。
「店の外にいたら、少しでも早く会えるでしょう?」
このマフラーは、ララが贈ったプレゼントだった。肌触りの良い緑色の布地に、彼の体温が移ってあたたかい。
微笑んで見上げてくる様子に、アミンスチカも毒気を抜かれたように肩を落とした。先程とは変わって、ごく穏やかな仕草で彼女の手を取る。
「寒かったかい?」
小さく握るアミンスチカの指の力に、ララは思わず頬を染める。優しい彼の言葉に、何故か表情をまっすぐ見られなくなって、顔を俯けた。
アミンスチカも、握った手の滑らかな感触にはっとする。この手袋は、
「プレゼントの手袋がありましたので……あ、あまり寒くはありませんでした……」
アミンスチカが贈ったプレゼントだ。ララの指先が、アミンスチカが温めたからかそれとも別のものか、ぽかぽかと熱を増す。
俯いたままおずおずと答える声に、アミンスチカも一緒になって俯いてしまう。
先にちらりと相手を見遣ったのは、ララの方だった。アミンスチカの顰めたような表情が見える。照れているのだろうか。
寒い雪の日に、二人でこうして温めあえる。こんな時間がずっと続けばいいと、心から思えた。
笑顔を零して、アミンスチカの手を軽く引く。
「ね、行きましょう」
ずっとこうしていたいけれど、二人にはこれからディナーの予定がある。
頷くアミンスチカも歩き出す。レストランまでの短い道のりも、手袋とマフラーの温かさで、少しも寒くはなかった。