■クロノス大祭『幸せのこたつむり』
「むにゃ……」つくづくコタツというものは、恐ろしい魔力を持つもの。寒い日に一度潜り込むと、出るのは一苦労。
キヨカズールはコタツの魔力に魅入られて久しい。早い話が、入り込んで心地よすぎて、そのままぐっすり眠りこんでしまったわけだ。普段はアフロヘア内が定位置のぬこですら、今回ばかりはコタツへと移動し、その暖かさの魔力にとらわれてくつろいでいる。
うつぶせになった彼が、顔をうずめるは女性の胸。フラン……斧の城塞騎士の通り名を持つ美女の柔らかな双璧へと、甘えるかのようにして顔を埋めていた。
「……んんっ……本当に、もう……」
フランが何か言ったようだったが、キヨカズールは気が付かずにいた。
クロノス大祭にて。
祭りを回り、楽しんだ二人は……自宅に戻り、そして自宅のコタツは卓上に、様々なものを広げた。
それは、買い込んだ色々なお土産。特にこの時期にしか出回らない、クロノス大祭での名物。いくつかは、クロノスマークの皿に乗せられ、見るからに食欲を刺激する。
コタツの卓上に並んだそれら、色とりどりのごちそうを目で楽しんだのち……二人は、行動に移った。それらを食べる、という最大の楽しみに取り掛かったのだ。
そんなこんなで、しばらくして。
美味を堪能した二人の胃の腑は、次第に満腹感が支配しつつあった。そして当然、満腹の次に来るのは睡眠への誘い。ましてやコタツに入り込んでいるなら、その誘いは更に強くなっていく。
卓上には半ば空っぽになった皿が並び、そのうちの一つには食べ残したケーキが。
片づけよう……などとは思っても、それを実行するものは居なかった。……フランもキヨカズールも、腹いっぱいになって寝転がってしまったのだ。
部屋着のままだし、なによりここは寝床ではない。それに食後の後片付けも終わっていない。
けれど、キヨカズールはそんな事お構いなし。大きな欠伸とともに、身体が勝手に眠りに入ってしまう。
「ちょっとだけなら……ま、いいか……」
言い訳めいた事を考えつつ、キヨカズールは、そしてフランは、そのまま抱き合って……眠りに入ってしまった。
キヨカズールは熟睡してしまうも、フランはまだうとうとしており、完全に眠っていない。
起きなきゃ……と思いつつも、この状態でも良いかなと思う自分がいる事に気づいていた。
自分の胸元に、頭を載せてぐっすり眠ってるキヨカズールを見ていると……なんだか気持ちがいい。彼が乗っかっている重みが、その心地よさを更に増しているかのよう。
「まあ……いいか……」
このまま眠ってしまっても、いいか。片づけは朝にすれば良いんだし。
そうしてフランもまた、陥落した。コタツの魔力の前に。
二人を陥落させたコタツは、二人に暖かさを提供し、心地良い眠りの空間を作り続けていた。