■クロノス大祭『二人の初デート』
「この服装で、大丈夫かな……?」今日はクロノス大祭。夜には、恋人であるルナに高級レストランでデートに誘われているのだ。
待ち合わせの数時間前。
出来上がったばかりの深紅のドレスに身を包んだアドルフィーネは、姿見の前で自分の格好を再確認する。
兄に頼んで急いで仕立ててもらったものなのだが、相変わらず寸分の狂い無く体に合わせてある。
(「スリーサイズとか教えてないのに……」)
ちょっと兄が恐ろしい。そう思うアドルフィーネだった。
「よ、よし……」
店を前にして、フィーネは一人気合を入れなおしていた。
こういう『お高い店』それ自体には慣れているものの、デートなんかで行くのは初めてなのだ。
いくぶん緊張もするものの、それ以上に楽しみである。
「や、やぁ」
恋人の姿を見つけたルナが、軽く手を上げ近づいてくる。
(「ん……? ルナも、緊張してるのかな? でも、ルナって女の子のエスコート得意そうだし……」)
きっと、こういうのも慣れてるんだろうな。
そんな風に考えて「ちょっと悔しいかも」などと暗くなりかけるアドルフィーネだが、すぐに、せっかくのお誘いなのだから楽しまないと損だと思い直す。
そうして、近づいてくる最愛の人へ満面の笑顔を向けるのだった。
一方、アドルフィーネが感づいた通り、ルナの方もしっかりと緊張していたのだった。
これまた彼女の想像と違わず、女性のエスコート自体は何度も経験がある。
(「それでも……」)
好きな女の子相手となると未経験ゾーンだ。
やっぱりどうしても意識してしまう。
本当はもっと気楽な店にした方が、誘う側としてもハードルが低いと思いはしたのだが……。
(「フィーネのドレス姿を見てみたかったから、あえてこのお店にしたのはナ・イ・ショ♪」)
ルナの、ちょっとした我侭――いや、男としての本能に忠実に従った結果だ。
(「たまにはいいよね?」)
「ん〜、思ったとおり似合うな〜♪」
「は、恥ずかしいことを言わないっ」
喜色満面、手放しで褒めるルナに、アドルフィーネの顔が赤く染まる。
――こうして、お互い少しだけ緊張しながら始まった初デート。
それでも大好きな恋人と二人きり……それに、素敵な夜景に料理も相まってとてもロマンチックなディナーとなり、二人の仲をいっそう進展させたのだった。