■クロノス大祭『煌めく夜の願い』
カンパニュラとヴェルメリーは、寄り添ってラッドシティの大時計を見上げていた。特別な日を祝福するかのように降ってくる、雪と金の砂。それは夜空に浮かぶ街の灯りにきらめいて、空から零れ落ちた星屑のようだった。ヴェルメリーは夜に浮かぶ白と金に思わず手を広げる。
(「もしかしたら、本当に間違えて星が落ちてくるんじゃないかな」)
ヴェルメリーの手の平の上で、冷たさを感じる間もなく白と金の粒は溶けて消えてしまう。
「手の平の温かさに触れると消えてしまう雪も、地面に落ちるときらめきを失う砂も、とても儚いものだけど」
ヴェルメリーの白い息が雪と金の砂でほのかに明るい夜空に消えていく。
「ねぇパニー。こうして思い出に仕舞えばきっと永遠になるよね」
寄り添った隣のカンパニュラの体温は温かくて愛おしくて、ヴェルメリーの胸のうちに幸せな気持ちがゆっくりと広がっていく。
これからもずっと、このぬくもりに触れて、声を聞いて、一緒に笑って、この幸せな気持ちを彼の傍で感じていけるように。
そんなヴェルメリーの気持ちが伝わったみたいに、カンパニュラは微笑んだ。
「そうだね。ひとつひとつの大切な思い出を包んで心に刻んだら失くさないよ」
白と金の光が降りそそぐ光景は美しすぎて、カンパニュラにはどこか夢のようだった。辺りに響く、賑やかな音楽や楽しげな笑い声。その向こう側から微かに聞こえてくる時計塔の秒針の音だけはいつも通りで、その響きのおかげで儚い雪も砂も本物なのだと実感できる。
(「特別なこの瞬間を覚えていたい。ただのいい思い出というだけじゃなくて、きっと僕の糧になるんだと思うから」)
「特別じゃない特別な日をこれからも過ごしていきたいね」
ヴェルメリーが囁いた。
これからも続くだろう、何もない普通の日。だけどそれは大好きな人と過ごす大切で特別な日。
(「何気ない瞬間を大切にヴェーネと過ごせたらいいな」)
温もりをもっともっと感じたくて、カンパニュラはヴェルメリーの身体を抱き寄せた。そっとその白い髪を撫でる。
(「いつもはなんだか気恥ずかしくて言えないけど、今日は特別な景色が背中を押してくれるから、心から君に伝えるよ」)
ちょっぴり緊張しながら、カンパニュラはヴェルメリーを見つめた。
「愛してる」
その言葉に、ヴェルメリーは少し驚いたようだった。けれどすぐに頬を赤くして、照れたように微笑んだ。
「ヴェーネ、来年も宜しくね」
「えへへ、宜しくね」
祝福するような白と金の光は、いつまでも二人の上に降り続いていた。