■クロノス大祭『ふたつでひとつ』
クロノス大祭――年に一度ラッドシティ中が金色や白色、そして音楽で包まれる。そんな美しくも賑やかな都市の中の一角、祭りのための出店が並ぶクロノスバザールを歩く二人組がいる。
黒い瞳に漆黒の髪を持つスラクと、青い瞳に金の髪を持つポウだ。
二人は、祭り特有の喧噪を楽しみながらクロノスバザールを回っていた。
しかし、ふいに二人は足を止めた。
二人の視線の先に映っているのはクロノスをモチーフにしたヌイグルミだ。
黒と金――まるで二人を模ったような二体が仲良く並んでいる。
一目で気に入り二人はヌイグルミを購入。黒のクロノスはポウ、金のクロノスをスラクがそれぞれ胸に抱いた。
その後、二人は温かいものを食べたり、食後の甘い紅茶を飲んだりとバザールの雰囲気を楽しんだ。
暫く二人で歩いていると、ふと何か興味をそそられるものでもあるのかポウがよそ見をしていた。どうやら何処からか漂って来ている甘い匂いに釣られてその店を探しているようだ。
「油断していると噛み付いちゃいますよ! がおー!」
スラクはポウがよそ見をしていたのが寂しいのか、注意を惹くため、それと少しの悪戯心を乗せて金のクロノスをポウの視線に入るように持ち上げた。
するとポウは少し驚いたような、それでいて微笑んでいるような、そんな顔をして止まっている。
(「……『がおー!』はちょっと違うでしょうか?」)
その顔を見ながら、スラクはそんな事を考えてこちらもつい止まってしまった。
一連の動きをポウは心の何処かが温まるような気分で見ていた。
金のクロノスが飛び跳ねたことに対するちょっとの驚き。そして、それを包み込むような可愛らしさ、愛おしさ……。
ついつい持っていた黒色のクロノスでキスを贈り、お返しをする。
スラクは突然起こった代理同士のキスに、驚いて一瞬言葉を失ってしまう。
恥ずかしかったのか、ポウは自身も蒼色と白色の混じるマフラーを直す素振りで引き上げ、照れた顔を隠してしまい、照れ隠しの言葉を漏らしてしまう。
「見てるぜ。さっきから、ずっと」
と、言いつつ甘い香りを漂わせるベビーカステラの店主が、こっちを見て手招きをしているのを指す。
スラクは、その行動のくすぐったさに思わず笑ってしまう。
しかし、やった本人も照れくさいが、やられた方も照れくさい。
此方も同じく照れ隠しの様にポウの指す甘い香りの方へ、
「一瞬でも目を離したら、迷子になっちゃいますからね!」
と、もう一度「がおー」のポーズをとりつつ駆けて行く。
(「おまけしてくれそうだな?」)
などと、ポウは手招きしている店主を見て笑った後、しっかりと目を離さないようスラクの後を追いかけて行く。
二人の胸の中のクロノス達も何処となく笑っているように見えた。