■クロノス大祭『良い子の君へ』
「早く、寝ない、と……プレ、ゼント……貰え、ないよ……」「じゃ、じゃあ寝ます……おやすみなさい……!!」
そんなレオンティウスの言葉に、マオは部屋に帰って慌てて布団に潜った――それは先程の話。
しっかりしているが、まだまだ彼女は幼い。気が付けば、すうすうと眠ってしまっていた。幼い子は、よく眠るものだ。
「…………」
今日、レオンティウスは恋人と会う約束をしている。そもそも今日は恋人達にとって、馴染みのある日なのだ。
しかし、すぐには行けない。恋人の元へと向かう前に、彼にはやるべきことがあったのだ。
「……うん、とても……気持ち、よさそう、に眠ってる……」
レオンティウスはそっとマオの部屋を覗き、微笑みを浮かべた。そして、彼女を起こしてしまうことの無いように、静かに部屋に足を踏み入れる。
「……」
彼女の枕元に、プレゼントである熊のぬいぐるみを置く。大きくて茶色い、首に赤いリボンを巻いた可愛らしいぬいぐるみだ――朝、彼女の喜ぶ顔が今から楽しみだ。
レオンティウスはそっと、ベッドで眠るマオの隣のスペースに腰を下ろした。熟睡しているようで、彼女はそれでも目を覚まさない。
ふと、その髪を撫でたいと思ってしまい、レオンティウスはマオの長い髪に触れた。さらさらとした、美しい漆黒の髪である。
「……!」
もぞもぞ、とマオが身体を動かした。起こしてしまったかと、レオンティウスは少し戸惑いを見せたが――すぐに、その表情は優しい物へと変わった。
彼の目には、幸せそうに眠るマオの姿。きっと、良い夢を見ているのだろう。そうなら良いな、と、レオンティウスは笑った。
「おや、すみ……マオ」
立ち上がろうとすると、何かに引っ張られる感覚がした。服をひっかけたのかと思ったが、どうやら違ったらしい。視線を動かした先にあったものを見て、レオンティウスは穏やかな笑みをこぼした。
「…………」
レオンティウスの服を、マオが掴んでいる。寝ぼけているのだろうが、その表情は本当に幸せそうで、嬉しそうに見えて。
隣に座られたり、頭を撫でられたりしても目を覚まさないほどに深く眠っていながらも、彼女はレオンティウスに「大好き」と、確かに訴えかけているように思えた。
「……」
だからといって、流石にこのままでは困ってしまう。レオンティウスはゆっくりとマオの手から自身の服を外した。暖かいマオの手を、そっと握る。
「俺も……大好き、だから……な?」
マオはまだ、夢の中だ。レオンティウスはほっと一息つき、部屋を出ようとした。入ってきた時と、同じように。
「おやすみなさい、レオン……」
「……?」
眠っている筈のマオの声が聞こえたような気がした。どうやら、空耳のようであったが。
「……」
くすり、と笑い、レオンティウスは静かに部屋の扉を閉めた――どうか、良い夢を。そう、願いながら――。