■クロノス大祭『二人の大祭』
「セレア」差し伸べられたフォークスの手に、セレアは掌を重ねた。
クロノス大祭の夜、金色の砂が辺りを舞う中、フォークスのエスコートでセレアが訪れたのは、雪の庭園を望む一角にあるレストラン。
「素敵な場所ね」
「だろ?」
思わずセレアが目を細めてしまうくらい、ムードのあふれるレストラン。気に入ってくれて良かったと安堵しつつ、フォークスはメニューをオーダーする。
運ばれてきたのは今宵の為だけの特別メニュー。グラスを掲げ、運ばれてくる器へ手を伸ばせば、どれもこれもが極上の味ばかり。
「デザートはいかがいたしましょう。テラスの方へ用意することも出来ますが……?」
「ふ〜ん。どうする?」
「なら外にしないか? せっかくのクロノス大祭、この景色を堪能したいからな」
顎に人差し指をあて、考え込むような仕草で見つめてくるセレアに、そう言ってフォークスは立ち上がると。
「……」
そっとウェイターに目配せ。意を察した男が頷くのを見届けて、フォークスはセレアを促す。彼女には、その真意を悟られないよう細心の注意を払いながら。
金の砂と純白の雪が混ざり合い、幻想的な庭園を眺めていると、やがて二人の耳に軽やかなメロディが届いた。
「あら、ダンス用かしら?」
それが、密やかにフォークスが頼んでおいた曲であることをセレアは知らない。
ただ、以前一緒にダンスを踊った時、からっきしだったフォークスの姿を思い出して、くすくすと笑みを浮かべているだけ。
だから――手を差し伸べられた時、セレアは驚いた。
「一曲、踊ろうぜ?」
「え? だってあなた、ダンスは……きゃ!?」
「いいから!」
いつになく強引に手を引き、フォークスはセレアを連れ出した。踏み込んだ雪の庭園をダンスホールに見立てて二人は踊り出す。
(「ど、どういうこと……?」)
あんなにダメだったフォークスが、今はすっかり堂に入った様子で踊っている。その姿はセレアの贔屓目なのかもしれないが……格好良くて。
演奏が終わるのに合わせてラストを決めると、セレアはふいっと彼から視線を逸らし、テラスへ戻るべく歩き出した。
……だってこれ以上、見つめたままでいるなんて――恥ずかしいから。
「少しは踊れる様になったじゃない?」
照れ隠しに唇を尖らせたセレアに、気付いているのかいないのか。フォークスは笑うと、今日という日にセレアと過ごせて良かったと、心からの想いをを告げる。
「これからも、宜しくな」
二曲目が奏でられ、人々が次々と庭園へ向かっていく。反対に閑散とする格好となったテラスの席で……フォークスは彼女を抱き寄せると、一瞬だけ触れるようなキスをする。
「な……!?」
声を裏返らせるセレアだが、人々の視線は庭園を向いていて、二人に注目する者などいない。
それに、気付いて。
セレアもまた瞳を伏せると、今度はフォークスの背へ腕を回し――二人は先程よりも、もっと深く口付けを交わした。