■クロノス大祭『二人の時間』
「……なんだ、こりゃ?」部屋に入ったストールンの前には、箱があった。
きれいな包装紙とリボンで飾られている。クロノス大祭なわけだし、自分も赤い衣装で贈り物を持っているのだから、時期的にはおかしくはない。
問題は、なぜそれがそこに置かれているか。
おそらくは、誰かが自分に送ってくれたのだろう。友よ、感謝する。
……と言いたいところだが、誰が送ってくれたギフトなのかわからない以上、誰に感謝すべきかわからない。
というか、この箱を開けても良いものか。なにせ、大きさが尋常じゃあない。
人が一人、楽に入れるくらいの大きさなのだ。中に何が入っているにしろ、ちょいと不安を覚えてしまう。
……いや、誰かが中に潜んでいて、いきなり襲い掛かられたら。あるいは……。
ガタッ。
「……!?」
心の臓が止まりそうなほどに、ストールンは驚いた。箱が揺れ動き、その蓋が勢いよく『内側から』開いた事で。
「おかえりなさーい、驚きました?」
中に入っていたのは、長いこげ茶色の髪、おっとりした大きい瞳の女性。
スズメ。かつては、ストールンの大切な友。いつしかそれは大切な恋人となり、そして今は、誰よりも大切な……女性。
「あ、ああ。ただいま」
安心するとともに、ストールンは彼女を見た。どうやら、びっくりさせようとしたのだろう……。
とかなんとか思ってるうちに、またびっくりさせられた。
スズメが身に着けているのは、大き目のリボンのみ。彼女の豊かな胸と腰に、幅広のリボンが巻かれているだけだったのだ。
柔らかそうな曲線と、色白の肌。そんな裸の上から赤色のリボンが上品に、かつ扇情的に巻き付いているのだ。ある意味、裸の姿より興奮させられる。それに気づいたのか、スズメ自身も恥ずかしそうに箱の縁に寄っていった。
「いや……えっと……」
まずい、このままではまずい。色々な意味で。
思考が一時シャットダウンしたストールンは、ポケットに入れておいたものを思い出した。
「そうだ、プレゼント……だぜ!」
「まあ……なんでしょう?」
顔を赤くしつつ、スズメにそれを差し出す。小さな小箱を。
それを受け取り開けるスズメ。その様子を見つめていると、ストールンは感じた。顔に、熱いものがこみあげてくるのを。
「……! まあ……」
今度は、彼女が驚く番。そしてスズメは……それを指にはめた。
「ありがとう……ございます……」
彼女の瞳から、涙がこぼれた。感謝の言葉と共に、嬉しそうな笑顔でストールンを見上げ、見つめてくる。
「スズメ……」
気が付くと、ストールンは彼女を抱きしめていた。
愛しい。愛しくてたまらない。
「……」
スズメにだけ、聞こえるように。ストールンは静かに、スズメの耳元で言葉を囁いた。
それに返答せず、スズメは……抱きしめかえすことで、それに答えた。
するり。衣擦れの音とともに、彼女のリボンがほどけていくのが、ストールンに伝わってきた。