■クロノス大祭『金砂の灯火』
パーティー会場に遊びに来ていたファルクとボリスは、時計塔から響く音楽に誘われて外へ出た。夜風で、ボリスの長い金色の髪がふわりと舞った。
会場が熱気に包まれていたせいか、外の空気が心地好い。
「気持ちいいね」
ボリスは青い瞳を細めてファルクに笑いかけた。
「本当だ」
ファルクは頷いて、深呼吸してみる。
二人とも、パーティー用の衣装に上着を羽織っただけの格好だったが、そのまま夜の街を歩きだした。
会場で流れていた楽しげなダンスミュージックが徐々に遠ざかり、時計塔から鳴り響く賑やかな音楽が近づいてくる。
ボリスは、いつも街を散歩していて見つけたのだと言って、ファルクに『とっておきの場所がある』と教えた。
「ここがとっておきのお昼寝スポットなの」
辿り着いた民家の屋根へ身軽に上り、ボリスはファルクを手招く。
「え……ここに上がるの?」
少しためらいつつも、ファルクはボリスのように屋根へ上った。
眼下には光をまいたような街の灯りが広がり、その中に一際高い時計塔が見える。
(「なるほど、確かに見晴らしは抜群だ」)
そこへ、急に冷たい風が吹き、ファルクは首をすくめた。
ファルクが隣を見ると、ボリスも白い息を吐いて震えている。
手を差し出して、ファルクは訊ねた。
「寒い?」
頷いたボリスの手を取ってファルクはコートのポケットへ入れた。
冷たかった指先も、少しずつ温かくなっていく。
ふと鼻に当たる冷たい感触にファルクは顔を上げた。
視界に映ったのは、黄金の空と花弁のように舞う真っ白な雪。
「ボリス、見て!」
ファルクは、緑色の瞳を輝かせて、少し興奮気味にボリスに話しかける。
「わぁ……っ!」
見上げて、感嘆の声をあげるボリス。
しばらく、二人は眼前に広がる神秘的な光景に見惚れた。
「すごい……」
それしか言えない。
まるで奇跡のような、こんなに素晴らしいことが起きるなら、二人の願いだって叶うかもしれない。
そんな気持ちになり、心の中で願う。
(「これからも、同じ時を共有できますように」)