ステータス画面

2人でクロノス大祭

竜と共に踊る虹の星・トーヤ
月花の雫・レイ

■クロノス大祭『raddolcendo』

 ――触れては溶ける金の砂。ふわふわと舞う白い雪。曲を奏でる時計塔。
 くるくると、トーヤとレイはラッドシティを巡る。
 クロノス大祭の浮き立つような雰囲気が、二人の足を弾ませる。
 ――賑わう露店。さざめく人波。幸せそうな恋人たち。
 キラキラと、見る物全てが輝いているみたいだった。
 ツンと冷たい雪交じりの空気さえ、いつもより美味しい気がした。
 このままお祭りの中で騒いでいるのも、きっと楽しいに違いない。
「ねえねえ、向こうに行ってみようよ!」
「えっ? ……あっ、ちょっと!?」
 けれどトーヤはレイの手を掴み、違う方向へ引っ張った。笑顔で行き交う人々の間をするりと抜けて、賑わいから遠くへ、お祭り騒ぎから、遠くへ。
 しばらく止まらずに歩き続けて、やがてたどり着いたのは白い広場。
 一面を覆う雪が、周囲の音を吸い込んでしまっているのだろうか。木立に囲まれたその場所はひっそりと人気がなく、しんと冷えて静かだった。
「もう、何なの?」
 ぱっと手を放して向き直ると、レイは開口一番そう言った。早足でずんずん進むトーヤを追ってきたせいで、息を切らせて不機嫌そうだ。白いコートの肩が上下するたび、口からも白い吐息が零れる。
 普段はおっとりと、柔らかい表情ばかり浮かべている彼女が、頬を膨らませている姿はちょっと貴重で、見られるのが嬉しくさえ思えた。
 そんなレイの怒りを、悪びれない笑顔でさらりと受け止めて――実際はいつも通りの笑顔を作るのに、いつもより少しだけ努力がいったけれど――トーヤは隠し持っていたあるモノを後ろ手に探る。
「渡したいものがあるんだぞっ」
 そしてレイに向け、ぽんとソレを差し出した。
 赤いリボンと星と花――それらに、可愛く飾られた緑の小箱。
「眼鏡のクロノスから、君へ!」
 突然の事に驚くレイの目の前で、トーヤがするするとリボンを解く。すると、箱の中から、円形の小さなドームが現れた。
「わあっ……綺麗」
 思わずと言った様子で、レイが感嘆の言葉を漏らす。まるで花がほころぶように、輝く笑顔が広がってゆく。
 透明なドームの中には、雪の空が詰まっていた。
 蒼く白い、小さな小さな幻想の世界。雪に交じってひらり、煌めく星くずも舞っている。中央には三日月が浮かび、ちょこんと腰かけた妖精が、降り続く雪や星を眺めていた。
 その姿は勿論、レイの妖精――メルディをイメージしたんだぞ。
 得意顔で告げるトーヤを、レイは上目づかいにちろりと見上げ、
「…………ありがと」
 照れを誤魔化すように、ちょっと俯きながら、呟いた。
 トーヤは満足そうに、にっかりと、笑った。

 ――言えない、言わない。 
 大切な一言が、何度も何度も、二人の間に浮かんでは消える。
 胸の奥から零れても、すぐに空気に溶けてしまう、白い吐息のように。

 『好き』の言葉が、二人の間で揺れている。
 雪の中、今はまだ、友達。
イラストレーター名:オリヤ