■クロノス大祭『Only Two Snowylake』
湖面を翔ける風は冬の澄んだ空気をより研ぎ澄まし、冷たさを増すようだった。それでも――『冷たい』とか『寒い』とか思わないのは、隣にある存在のためだろうか。
アッシュとカムイは、二人で湖の畔を訪れていた。
不思議な色の空から金色が降り注ぎ、水面の揺らめきできらきらと光る。
カムイはアッシュをそっと見た。
その瞳にはきっと、水面の煌めきを映しているんだろう。
一緒にお祭に参加できることが、恥ずかしいような……照れくさいような。
(「嬉しいけれど、緊張はしちゃうな」)
でも、楽しく過ごせれば良いな、とカムイは思った。自分も――当然、アッシュも。
(「カムイと過ごすお祭りの夜……」)
視線は湖面に向けたまま、アッシュは細く息を吐き出した。
(「気持ちが舞い上がっているせいか、いつもよりも余計に意識してしまうな……」)
カムイもアッシュも、互いを意識していたせいか、自然と口数が減った。
けれど――会話は決して多くはなかったけれど、胸に満ちるのは充足の思いだ。
カムイはアッシュと共にいる、今この瞬間の幸せに浸る。
雪が彩る湖の畔の、一番景色が綺麗に見える位置でどちらからともなく足を止めた。
冬の澄んだ空気に身を晒し、金色の煌めきを映す湖を二人で、眺める。
腰を下ろしたカムイの見上げてくる視線に気付いたのか、アッシュがカムイを見下ろした。
(「……目が合っちゃった……」)
気恥ずかしさから、カムイは赤くなってそっぽ向く。
目が合った瞬間、アッシュもまた赤くなりつつ目をそらしたことには気付かないまま、立ち上がった。
――立ち上がるカムイはそっと、温もり包まれる。
カムイの耳元に柔らかな吐息が触れた。
「――大好きだ」
耳元に口を寄せ、アッシュが囁く。
カムイを抱き締めるアッシュの腕の力が強まる。強く……けれど、優しい腕。
だから敵わないんだ、とカムイは心の中で呟いて目を閉じた。
(「俺が望んだことをいっつも見据えてするから」)
抱き締めるアッシュの手にカムイもまた、そっと手を添える。
「これからも、迷惑かけるけどずっと一緒にいてね……」
カムイの小さな声にアッシュの言葉はない。
二人きりの、雪が彩る湖の畔で――離さない腕が、アッシュの答えだった。