■クロノス大祭『たまにはデレて!』
金の砂が舞い落ちるクロノス大祭。街は活気付き、そこら彼処で催し物が開かれている。
フェミナは、目を輝かせながら辺りを見渡していく。
「クロノス大祭だな、おるりん!」
おるりんと呼ばれたのは、彼女の隣にいた同じ年頃の少女。
オルトリンデは、げんなりとした様子でため息をこぼす。
おるりんというのは、いわゆる愛称というものだが、何だか慣れない。
背伸びしたい少女からすれば子供じみたソレは、受け入れがたいのだろう。
「おるりん言うなっ」
隣にいたフェミナへ振り返ると、よく分からないが目を輝かせてこちらを見ている。
何を期待されているのやら? 見当もつかず、再びため息。
「クロノス大祭だなっ」
二度言われた。
勿論向けられる視線は変わらない。
「だね。でも私は特に祭に用事は無いし」
そもそも今日はフェミナに誘われ、買い物に付き合っただけ。
帰る頃となった今は丁度祭りの賑わいどころだ。
だが、特に愛を告白することも無ければダンジョンに向かうことも無い。
興味ないとそのまま立ち去ろうとしたオルトリンデの腕へ、フェミナが飛びついた。
「ま、まってよぅ! プレゼント、プレゼントあるから行かないで!」
オルデリンデは二歩三歩フェミナを引きずった後、キョトンとした表情で彼女へと向き直る。
「……プレゼント、何で?」
何か祝われるような事は記憶に無い、彼女の反応にフェミナは無邪気な微笑をこぼす。
その手に握られていたのは、フェミナがオルデリンデと相談しながら購入したプレゼントだった。
「お祭りなんだから、いつものお礼だ!」
祭りだから、その理由に繋がりを理解が難しい。
満面の笑みで差し出されたプレゼントに、オルデリンデは一瞬戸惑ってしまう。
「……私は何も用意してないけど、いいの?」
そんな事を考えていたならば、一緒に何か準備しておけばよかった。
子犬の様に懐っこい彼女にうんざりした態度で傍にいるも、こればかりは言葉に心が映し出されてしまう。
「……い、いいよ! その代わり、また遊んでもらうからなっ!」
真っ直ぐな言葉に、曇った表情も晴れやかに変わっていく。
「……ん、わかった」
受け取るオルデリンデを見つめるフェミナ。
だが、言葉はコレで終わったわけではない。
「で……祭りを見て回りたいだろう? 仕方ないから付き合うよ」
素直になれない。
本当はちゃんとお礼も喜びも口にしたい、けれど背伸びしたい想いがそれを邪魔してしまう。
「ありがとう〜!」
そのまま擦りつくフェミナに困った様に眉を顰めるオルデリンデ。
いつもと変わらない光景、けれど違うのは神秘的な夜空と優しく柔らかな微笑であった。