ステータス画面

2人でクロノス大祭

ダークナイト・ハンス
妖華のうたかた・アルカ

■クロノス大祭『妖華と騎士』

 きい、と蝶番がかすかに軋む音は、夜の静寂に殊更よく響く。とある閑静な宿舎の最上階、白髪の少年が開いた扉は無人の部屋に繋がっており、そこへ続く薄明かりの廊下を、金髪の少女が悠然と歩いていた。
 照明を絞ったこの場所では、相手の表情をうまく察することができない。楽しそうなのか退屈そうなのか判らないまま、少年は少女を部屋に案内する。
「こちらへどうぞ、アルカさん」
「ご苦労様ですわ、ハンス」
 少年と少女――ハンスとアルカは、連れ立ってスイートルームに入った。ハンスがドアを閉め、方々の照明を灯していく先で、アルカは右腕を鷹揚に広げハンスを待っている。
 その肩からコートを抜く時になって、ハンスはアルカの顔を照明の下で見られるようになった。布地に合わせ翻る長髪の向こうには、大人びたいつも通りの微笑がある。
「お気に、召しませんか?」
「そんなことはありません。もし嫌でしたら、誘いになど乗りませんわ」
「……すいません、変な事訊いてしまって」
 ハンスは一礼すると、抱えたコートをハンガーに掛けに行った。アルカはそれを見送ると、手近な椅子へ腰を掛ける。
「それにしても、ねえハンス」
「はい、何か御用です、か……?」
 ベッドメイキングを始めたハンスに、アルカが声を掛けた。アルカの表情は堪えきれぬといった意地の悪いもので、ハンスは内心に冷や汗をかく。
「女を宿に連れ込んで不安になる男というものは、見ていて愉快ですわね」
 どきりと、見透かされたようで、ハンスの心臓に冷たいものが流れ込んだ。だがアルカは楽しさに顔を綻ばせており、ハンスは深呼吸をして自分を落ち着かせる。
「その、からかわないでください……」
 口ごもりながらハンスは手早く作業を終わらせた。シーツの四隅を確認しカバーを被せれば、それで雑務はおしまいだ。
「では僕はこれで。向かいの部屋にいますので、何か御用でしたら――」
「あら、下がれと言った覚えはありませんわ、ハンス」
 一礼してハンスが部屋から出て行こうとする所を、アルカが呼び止めた。
「ここにいなさい。出来のよい従者なら、ここ、とはどこの事なのか、分かって頂けますわね?」
「…………はい」
 一瞬の沈黙の後ハンスが腰を下ろしたのは、整えたばかりのベッドの上だ。アルカがその脚の間に入り込み、全身を上らせて来るのを、ハンスは逃げようとして叶わず倒れこむ。
「……あら、わたくしはあなたの傍に居るだけですわ。なのに何故、そのように及び腰なのかしら?」
「また僕をからかってるんですか……。まったく、困った主です」
 狼狽したハンスに、アルカは悪戯な笑顔を見せていた。その雰囲気にハンスはどこか安心してアルカの行動を受け入れるが、すぐにそれが油断であったと気づかされる。
「ええ、連れ込まれた女が、何も期待しないわけがないでしょうに。困ったハンスですわ」
 アルカは緩んだハンスの頬を撫でると、有無を言わせず唇を近づけ――。
イラストレーター名:Charon