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2人でクロノス大祭

うたたね唄猫・ユリウス
氷精・ルーニャ

■クロノス大祭『Juramento』

 ──大祭の夜に1曲披露するね。
 その約束を果たすべく、喧騒を少し離れた高台の上の時計台へと潜り込んだ。
 白い雪と金色の砂が舞う、暖かな灯の点る街の姿が、飾り窓からのほかに覗く。
 リュートを取り出し壁際に座り込んで、ぽつり、ユリウスが言う。
「僕ら、思えば出会ッて半年なんだねェ」
 永遠の森での眠りから覚めて、初めて出来た友達。色んなところへ行ったなとルーニャが思いを馳せたとき、同じことを考えたのだろう、
「ふたりで最初に出かけたのッて、夏のリゾート地だッけ?」
 ユリウスが唐突に言う。
 ルーニャは少し視線を上げて、思い返す。
「あの時は君が浴槽で寝て、溺れかけた」
「うッ……」
 むせ返るような南国の果実の香り。あんなものも、初めてだった。
「一緒に、星も見に行ったな」
「あの時は、今まで出会ッた人と同じで……キミとの別れもいつか来るんだッて、思ッてた」
 流れる星空。それまでの唯一の『相棒』だった妖精に、他ならぬ彼に名前をつけてもらった日。
「アクエリオを早朝ランニングしたり」
「……苦行だッたなァ」
 水の都での鍛錬を思い出していささか声の弾むルーニャに、ユリウスは苦く笑う。
「一対一の真剣勝負もしたな。あの時の罰ゲームは傑作だった……」
「あれは本当完敗だッたー!」
 思い出したのだろう、くすくす笑う相棒に、ルーニャも共に笑いながら少し、悪戯心。
「この先もずっとユーリの面倒を見る破目になると思うと、頭が痛い」
「なッ……どーいう意味だよー!」
 むすりと膨れるユリウスから顔を逸らして喉で笑えば、彼は「もー……」と諦めて、大切そうに、そっとリュートを身に寄せた。
「……約束の唄、唄うよ」

 誕生日に、相棒からもらった楽譜集。
 なんだかいつも一緒にいるから、隠れて練習するのは大変だった、なんてもちろん、言わないけれど。
 大丈夫、もう覚えてる。
 冷たい空気を吸い込んで、静かに優しく、弦を弾く。
 零れ出す音はすぐ旋律になって、紡ぐ声はすぐ唄になって。
 決めてたんだ。
 もらった楽譜集に、この唄を見つけたときから。
 君に唄う。出逢いと絆を綴った、静かで優しい、歓びと、──感謝の唄。

 細く長い余韻の最後、相棒が弦をぽんと弾けば、ルーニャは自然と拍手を贈っていた。
「へへ、ありがとー、ルーニャ。どうだッた?」
「ああ。うまく言えないが、……良かった」
 無骨な言葉しか返せない自分が少し情けなくなるが、相棒は全部判っているかのようにへにゃりと相好を崩した。
「やッた、ルーニャに褒められたー」
 悪戯っぽく返してくる相棒に彼が苦笑を刻むと、ユリウスは不意に明るい緑の瞳で「……ねェ、ルーニャ」と彼を見た。
「来年の……僕の誕生日。……キミの眠ッていた場所に、連れて行ッて」
 君の見た景色をなぞるみたいに、これからもたくさんの景色を共有していこう。
「……ああ。君をエルフヘイムへ連れて行く。約束だ」
 その誓いは、必ず。
イラストレーター名:旭