■クロノス大祭『Quand deux personnes vont marcher plus loin』
室内の空気が、変わった。否、世界が変わったのを、リュアンは感じた。もっとも、変えたのは自分だが。
「ルキラ……」
「……リュアン……さん……」
そうとも、変わった。何かを超えて、変化した。それを目前の少女……ルキラも、実感しているようだった。
「あ〜、楽しかった♪」
クロノスメイズに大祭と、リュアンは彼女と……ルキラと楽しみ、最後に自室に戻ってきた。ベッドの縁をソファ代わりに隣り合って座り、互いにいろいろ話し合い、笑いあい、お菓子やごちそうを食べたりして、楽しい時間を過ごす。
お互いのプレゼント交換も済んだ。もうそろそろ、祭も終わる。
……けれど……リュアンは、終わらせたくなかった。
彼にはあったのだ、もっと……欲しいものが。
「……ルキラ……」
「はい、リュアンさん?」
じっと、邪気が無い瞳で見つめ返してくる。その眼を見つめると、純粋さが伝わり……いつも、思う。
ずっと、そばに居たい、居てやりたい、と。
そうだ。リュアンは、はっきりと悟った。自分が欲しいものが何か、を。
それは、ルキラ。蒼碧の風のような、目前の少女。
じっと見つめつつ、彼女の顔へと、己の顔を近づける。
「リュアンさん、どうしたのかな?」
きょとんとする彼女。いつもならここで……なんでもないと離れてしまうところ。
だが、今は……それで終わらせてはならないと、理性を凌駕した何かが動いていた。
「具合でも悪いの? リュアンさ……」
気が付くと、リュアンはルキラの顎に手を当て、上を向かせ……。
その唇に、己の唇を重ねていた。
「……リュアン……さん……」
お互いの唇が離れた後、ルキラは何が起こったのか、呆然としていたが……やがて、その頬が真っ赤に染まっていった。
だがそれは、リュアンも同じ。彼の顔にも、熱が集まっていた。
血が上る。恥ずかしくて、体中が沸騰しそうな気持ちが胸を焦がす。
ぎゅっ。
気が付くと、ルキラが自分の胸に飛び込み、抱きしめてくれていた。
「……初めての、キス、だね……」
「……ああ」
ルキラの体温を感じつつ、満たされた気持ちとともに、リュアンは見た。世界が輝いて見えるのを。
ようやく、リュアンもまた自分のしでかしたことに気が付いた。
やばい、俺……何てことしちまった!
何か、伝えなきゃ。何か、何か、何でもいい、ええと……。
パニックに襲われそうになったが……やがて、すぐに落ち着く。
そうとも、伝えるべきことなど、たった一つしかないじゃないか。
「ルキラ……」
ゆっくりと、そして、はっきりと。短いが、大切な言葉を、口にする。
「好きだ」
それに対する、彼女の言葉。
「リュアン……さん……」
それが……互いの心を、一つに結ばせた。
「リュアンさん……大好き、だよ」