■リヴァイアサン大祭2012『戦え!リヴァ充ブレイカー!〜だけど相手が悪かった〜』
舞う、粉雪。冷え込む夜、瞬く星の下、白い吐息を楽しげな笑い声と共に零す、幸せそうなたくさんの人々。
「今年もこの季節がやってきたな……」
ふ、と笑う、ギグ。
「もうちょっと先行かねッスか? リヴァイアサンが見えるいい場所知ってるんスよ」
「ふーん? どうしようかしらね?」
その視界の先には、甘い駆け引きに興じるひと組のカップル。
振り返る。長いマフラーを互いに巻きつけたカップル。視線を巡らせる。温かい飲み物を手に包んでベンチで言葉交わすカップル。あっちもこっちも、どっちもそっちも、カップルカップルカップルカップル。
ぷっちん。
「クソァ! イチャイチャしやがってバカップルどもめ! 俺達独り身の! どうあがいても『良い人』で終わってしまう存在の! 彼女居ない暦=人生の! 悲しみと苦しみと絶望と怒りと怨念を! 今思い知らせてやるぁぁぁぁぁぁ!!」
ああ頬に触れる雪があったかいよおかしいな!
なんだろう視界が歪むよなんでだろう!
ちくしょう泣いてないよまずはお前らだ覚悟しやが──、
「何やってんの? あんた」
駆け引きを楽しんでいたふたりの背後へとギグが踏み込んだそのとき、艶やかな漆黒の髪を揺らして振り向いた、女の顔。アルトの声。
「エレノア……!」
ま、まさかの知り合い、だと……!!
い、いや、だがここで折れるわけにはいかない!
「今日の俺は女の子ではなく不幸な独り身の味方! 例えエレノア相手でも止まりはしないぜ!」
覚悟しろエレノア! ──の、隣のチャラ男!!!
踏み込む足に勢い乗せて、拳に目覚めよ、断罪の女神……!
「あァ? ざけんじゃねーよ。せっかく楽しんでんのに邪魔しやがって!」
ところが響いた、カオスカデンツァ。迅き風が彼女の髪を巻き上げ、地表が割れ、凍える吹雪がギグの闘志を凍てつかせる!
「くっ……! だが女神は、俺に微笑む……!!」
「やってみやがれ!」
ちゅどどーん。
勝負は、あっという間に決した。
いつしか集まった野次馬達の視線が集まるのは、
「ふん。あたしに喧嘩売るとか、百年早いんだよ!」
手を打ち払い、顎を上げて見下ろすエレノアと、地に倒れ付すギグ。
結局エレノア相手に本気を出せなかったギグに対して、デートを邪魔された彼女の怒りは本物で、攻撃は全くもって容赦がなかった。
「悔いは、ない……。これが俺の青春なのだから……」
それでも最後にそう呟き、がくりとギグが崩れ落ちたとき、周囲から拍手が沸き起こり、彼女は手を挙げて見せる。
彼はひとつ、間違った。
断罪の女神は、近距離の敵の怨念のみを殺す。
怨念放っていた最も身近な敵は──彼自身だったと、そういうこと、なのかもしれない。
だけど彼は、ひとつ、勝った。
何故なら彼女の隣に寄り添っていたチャラ男は──突如鬼神と化した彼女の姿に恐れおののき、もはや甘い空気は、雪と共に儚く溶けて消えていたのだから。