■リヴァイアサン大祭2012『いいにおい…』『レヴィ…?』
「はー疲れた! ほんと容赦ねぇ……」どさり、レヴィルは部屋のソファに身を落とす。
大祭の雪に浮かれた街の子供らにせがまれ、日中ずっと雪合戦を繰り広げたのだから、彼の疲労は無理もない。
身体が重い。ついでに瞼も重い。
(「このまんま寝たら風邪ひくよなぁ……」)
軋みを上げそうな鈍い動きの身体を叱咤して、立ち上がり上衣を脱いだ、までは良かったのだが。
(「だめだ眠い……」)
面倒だと、そのまま彼は柔らかなベッドへとうつ伏せに倒れ込んだ。
きっと『良い子』が眠りについただろう、夜の帳を見上げ。
赤い生地にふわふわの白い縁取りの衣装。この日に舞い降りる、妖精さんの御伽噺。
(「良い子はプレゼント貰えるんだろ?」)
ふふり、笑うアーリオン。小さく芽生えた、悪戯心。朝起きてプレゼントを見付けた彼が、どんな顔をするのか見れないのは残念だけれど、喜んでくれるなら、こんなに楽しいことはない。
と、と。軽い足取り、スカイランナーの技量発揮。あっという間に彼の家の窓から、侵入。こっそり寝室を覗けば、ベッドに伏せて、動かない彼。
(「よし、ちゃんと寝てるな! 今のうちに……」)
目的を無事果たし、素早く退散しようとした彼女が気付いたのは、こんな寒い夜だというのに、上半身裸で眠る、彼の姿。
「……風邪ひくぞー?」
布団を静かに彼の肩に掛けようとした、そのとき。
「……ゎっ……!」
(「ん……なんかぬくい……。オレ、ヒュプノス出したっけ……」)
腕に触れる、もこもこしたもの。手放したくなくて、きゅう、と抱き寄せる。やわらかくて、あったかい。そしてなんだか、甘く、
「……いいにおい……」
その香りに包まれるようにして、深い眠りに落ちようとしたとき、なんだか肩を揺すられるような感覚があって、うっすら目を開く。
──レヴィ……?
ああ、誰だっけ。聞き覚えがある声……この、香りにも……。
世界が、反転した。
寝惚けたらしいレヴィルに覆いかぶさられたのだと理解するまで、一瞬時をかけた。
抱きすくめられて、ベッドの上、アーリオンは動けない。呼んでみたら一度は目も開いたけれど、なにも見てないみたいだった。
「……アーリ」
「!」
突然呼ばれて驚くけれど、起きたようではないみたい。けれどなんだか、子供が大切なぬいぐるみを抱くような、そんな感じで腕の力が緩むこともなくて。
(「どうしよう、かな……」)
帰らなくちゃ。でも、起こしちゃったらサプライズがなくなっちゃう。
ああ、でも。
アーリオンはもう一度澄んだ青い瞳を彼の寝顔に向ける。幸せそうな顔。眠ることが好きな彼女としても、この眠りを、妨げたくはない。それに、すごく、あったかくて。
(「朝、起きたらレヴィ、びっくりするだろうなぁ……」)
本当は年上のはずのエルフの柔らかな髪を、そっと梳いてやって、ふふり、彼女は笑みを零す。
悪戯、変更。
きみの驚く顔を、みてやろう。