■リヴァイアサン大祭2012『Honey Snow』
雪舞うエルフヘイムの空の中、美しい体をくねらせながらリヴァイアサンが泳いでいく。「空を……あんな綺麗で大きな精霊が空を舞う、なんて」
その姿をぼんやりと見上げて、ソナチネが呟いた。
初めてのリヴァイアサン大祭。初めて見る精霊。初めて見る景色。
「世界にはきっと……まだまだあたしの知らないものが、たくさんあるのね……」
「世界は不思議で満ちている。そしてそれらを知ったとき感動を呼ぶってな」
隣を歩くアウグストにとっても初めて参加する大祭だ。聞こえてきた声に、彼は教えるように言葉を返した。
(「あ、今かっこいいコト言った!!」)
心中でちょっとだけ自分をほめてみたりしながら。
二人が連れ立って来ているのはハニーバザール。周囲は鮮やかなランプで彩られ、暗いはずの道を賑やかに照らしている。
やむこと無い雪の下、彼女を暇にさせないようにとアウグストが頑張って話題を作りつつ、共にバザールを散策していった。並ぶたくさんの屋台から良い匂いが漂ってくる。
ふと、一軒の店に目を留めたソナチネが立ち止まった。
「これ……可愛い」
言って手に取ったのは、蓋にリボンの飾りがついた、レモンの入った蜂蜜の瓶。
ランプに照らされ黄金色に輝く蜂蜜の中のレモンは、星形に切って整えられていた。
アウグストも瓶へ顔を向けて同意する。
「あぁ、確かに可愛いな」
そしてすぐさま彼は店員へと声をかけた。ソナチネの手にする瓶を指し示し、代金を支払い、それから再び顔を彼女へと戻す。
「今日の記念に。俺からのプレゼント」
光に煌めく雪の中、アウグストが笑った。
ソナチネの瞳が驚きを表し、次いで嬉しさにきらきらと輝く。性質ゆえか表情は大きくは変わらなかったが、とても喜んでいると十分に見て取れる目だった。
「ありがと……、ずっと、……大切にする、わ」
礼を言ってアウグストへと視線を向けたソナチネは、いつの間にか彼の手の中にたこ焼きがある事に気付く。蜂蜜に気をとられている隙に買い求めていたのかもしれない。
満足そうな顔でアウグストが頬張るたこ焼きには、珍しいことに黄金色の蜜がかかっていた。たこ焼きとは別に購入し自分でトッピングしたらしい。
「アグのたこ焼き……蜂蜜がかかってる、の……?」
「あぁ、なかなか美味しいぞ。たべるか?」
不思議そうに見やるソナチネへと、アウグストはたこ焼きを差し出す。
少し首を傾げてから、彼女は眼前の不思議を知るべく口を寄せた。
やがて夜も更け、二人は並んで帰路につく。
「……今日は、一緒にお買いものしてくれて、……ありがと」
「いやいや、俺も楽しかったよ。ありがとな!!」
星の詰まった瓶を抱えて小さく礼を言うソナチネに、笑い返すアウグスト。
実に楽しく素敵な時間を過ごせた。互いにそう思い、隣人へと感謝する。
初めてのリヴァイアサン大祭は、とても素敵な思い出となりそうだった。