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2人でリヴァイアサン大祭

闇狼・ヴォルフ
闇紡ぎ・アルテミシア

■リヴァイアサン大祭2012『Nur ein Versprechen』

 その日、夜空には星霊リヴァイアサンが舞う。
 一年に一度の特別な日に、アルテミシアは恋人のヴォルフを連れて生まれ故郷の村近くにやってきた。
 アルテミシアにとって、生まれ故郷は良い記憶のある場所ではないが、すでに故人となってしまった数少ない家族との思い出の場所であったがゆえに、またリヴァイアサンが眺められる場所であるがゆえに、訪れる決意をしたのだ。
 何よりヴォルフは大切な恩人。友人として尊敬もしていたし、いつしか親友と呼べるまでに絆を深めて、やがて想いはもう一段階違うものへと変化した。
 恋人として付き合い出したのは最近だが、そのような積み重ねがあったればこそ、2人は静かにリヴァイアサン大祭のひとときを過ごす選択をしたといえよう。
 騒ぐでもない、情熱的な抱擁をするでもない。
 2人の間にはむしろ、まるで儀式めいた荘厳な雰囲気すらあるようだった。
 寒いだけではなくリヴァイアサンを見られると知る人はほとんどいないような場所だったせいもあって雪の降り積もる森の中は2人以外誰もおらず、とても静かだ。時折、落雪の音がする程度。それは雪の重みに耐えかねて森の木々が身じろぎするせいで落雪となるかのように、風すらも息を潜めているのだ。
 森の一角に腰を落ち着けて、アルテミシアは一冊の絵本を取り出す。
「これをあなたに贈るわ」
「いいのか」
 亡くなった親との唯一の思い出の品であるとヴォルフも知っていたから。
 大切だからこそ、あなたにもらって欲しいの。
 アルテミシアの唇が紡ぐは、その絵本の思い出や小さい頃に父親から聞かされた星霊リヴァイアサンやエルフの森の話。
 紫の瞳を伏せて語り、時にヴォルフの緑深い瞳を見詰めて。
 出会ったばかりの頃のアルテミシアは過去や自分の立場を悲観して泣いてばかりだった。それが微笑みながら昔の話をするまでになったことにヴォルフは安堵した。
 エルフに伝わるリヴァイアサンの話。
 過去の話。
 とりとめなく、微笑みながら言葉を紡ぐアルテミシアが肩にもたれかかってくるのへ、ヴォルフもまた微笑みながら耳を傾けている。
 時間はいくらでもある。
 人の気配のしない森に2人きり。
 恋人と過ごすこのひとときはどれだけ楽しんでも誰にも何も言われない、大切なかけがえの無い時間だ。
 静かな夜は更けていった。
イラストレーター名:ひざ枕 夢路