■リヴァイアサン大祭2012『snow drop』
リヴァイアサン大祭は特別な日であり、多くの人々が大切な時間を過ごしている。それは恋人だけに限ったことではなく、友人知人であり……しかしより深い間を求める人々もいる。雪が世界を包んでいる。柔らかく、優しく穏やかに。白く染まる世界には静寂が満ちている。
そんな白い世界の中で、ひときわ輝きを増す黄金の川があった。甘い蜜が溢れんばかりに流れている。芳醇な香りが漂い、それに誘われるように川を覗き込む影が一つ。
「わぁ、凄い綺麗……」
エアリーは輝く蜜の川に負けないくらいに瞳をきらめかせ、川を覗き込む。その輝きに吸い込まれるように深く覗き込むうちに身体が深く傾いてしまう。
「危ないですよ!?」
うっかり落ちそうになる身体をイドが後ろから抱え込み、つい尻餅をついてしまう。注意する暇もなく動かれては眼を離すことができない。
まあそれはいつものことかと溜息をつく。けれどそれはけして嫌な溜息ではなく親密さを含んでいた。
「あ、あのごめんね!?」
最初はきょとんとしていたエアリーだが、今の自分の状況とその過程にまで思い至れば慌てふためいてしまう。耳まで赤く染めて、イドの腕の中で恥ずかしさで小さくなってしまう。
イドはその姿に笑みを浮かべる。その姿に何を感じたのか。今まで一緒に過ごした大切な友達。
「蜂蜜漬けになったら美味しかったですかね?」
そう言葉を紡ぎながら抱いた相手の肩に頭を預ける。それにエアリーは不思議そうに首を傾げる。
そんな仕草にもまた笑みを零してしまいながら今の自分の心境を改めて考える。こんな言葉を零してしまうのはきっといつもと違う景色のせいだ。
今まで心の隅で感じていたこと。分け合う好きも悪くないけれど、自分は大好きを独り占めしたいと思う。
「ねえ、エア……。我侭を聞いて? 君を、僕のだって言わせてくれませんか?」
紡がれる言葉。それはゆっくりと、でも確かにエアリーの中に染み込んでいく。
染み込み伝わる言葉に嬉しそうな微笑を浮かべた。次いで自身を抱いてくれるイドの手に自分の手を重ね合わせる。
「この手を離さないと決めた日からあたしの心は、イドの事で一杯だよ」
大切で大好きで、ずっと一緒に居たい人。この想いは確実なもの。
伝わる声にイドは嬉しそうに、改めて笑みを深くする。
「ありがとう。じゃあ……そして、君の我侭をいつかきかせて」
それが自分の我侭を聞いてくれた、大切な相手への御返し。
「いつかじゃなくて、すぐに聞かせてあげるよ。あたしはイドの、なら、このまま捕まえておいてね?」
いつだって、貴方のだって言わせてあげるから。
「あたしの我侭も、ちゃんと叶えてね」
その笑みはイドと同じように嬉しそうなもので、確かな絆を繋がった手から感じることが出来た。
お互いの我侭は相手を想う絆。
白く静かな雪の世界の中、甘い蜜の川の傍らで2人は幸せな時間を過ごすのだった。