■リヴァイアサン大祭2012『未来が見えなくても、今はもう少しだけ一緒に』
先日、ペアリングを貰ったお礼にと、エイトを連れ出したのはジャックだった。彼が欲しいと言っていた帽子を買うために入った店。
店のガラスに映るのは、いつもなら着ない少女めいた格好をした自分。
お洒落をしたのは紛れも無い、彼の為だが……。
なんとなく、そんな自分を認めきれずにジャックは自分の姿に首を傾げる。一方で……。
この関係をもう少し、先に進めたい。
秘めた想いを抱き、特別な日、二人きりの外出に胸の高鳴りを抑えきれないエイト。
帽子を選びながら、ジャックの姿に微笑む。
目的の物を購入し帽子屋を後にすると、二人はエイトが誘った芝居を観る為に劇場へと足を運ぶ。
リヴァイアサンの当日だけ公演を行う、特別なお芝居。
しかし、幕が上がった壇上を目にして、ジャックは凍りついた。
お前さえいなければ――。
自分を罵る母の声。
過去の記憶がジャックの脳裏に蘇る。
この日、劇場で行われていた演目は、かつて女優として彼女の母が主役を演じたものと、同じものだったのだ。
舞台の女優が自分を虐げる母の姿に重なり、ジャックは思わず踵を返し、劇場を飛び出した。
突然のジャックの行動に驚くエイトだが、ただごとではない彼女の様子に慌てて後を追いかける。
「こっち来るな!」
力いっぱい叫びながら、ジャックは全速力で町を駆け抜ける。
彼女の足は早い。あっという間に町の外れまで来てしまった。
「あっち行って! 頼むから! 明日には戻るから、いつもの僕に、戻るから! だから帰って! 帰ってよ!!」
ダメ、この顔は見せられない。彼には。
彼だから。
涙が伝う頬を見られぬようにと、フードを引っ張り顔を隠す。
気付けば、足は止まっていた。
拒絶の言葉を受けながらも、それでも追いかけ近づくエイトに、とうとう追いつかれた。
「大丈夫だよ、大丈夫」
魔法の様な優しい言葉と共に、そっと抱きしめられる。
暖かさと優しい声に、少しずつ落ち着きを取り戻したジャックのフードをそっと持ち上げ、まだ涙に濡れる頬にエイトはそっとキスを落とす。
「怖いならまだ気付かなくていい。僕の気持ちが解らなくていい」
この秘めた想いを、もう一歩、先へ。そう望む気持ちもあるけれど――。
まだ、伝わらなくとも構わない。
「でも、今はもう少しだけ一緒にいよう」
揃いで買った腕輪を、ジャックの腕にそっと嵌めながら。
大切だからこそ、紡ぐ言葉。
嵌められた腕輪に目を落とすと、金に光る表面に文字が彫られている。
それは、声にならない誓いの言葉。
――ずっと、君の傍に――。
「君って、ほんと、バカ……」
微かにぼやける視界に、エイトの姿を映して。
言葉にならない嬉しさと、彼の優しさに、思わず笑みを零しながら、そっと肩を寄せる。
まだ、未来が見えなくても。
今はもう少しだけ、一緒に。