■リヴァイアサン大祭2012『二人だけのメロディー』
「よし! できた!」クロウはペンを置き、間違がないかもう一度弾いてみて確かめる。
リヴァイアサン大祭の為に、何よりレンリの為に数ヶ月かけて作った楽譜。
全てはレンリに喜んでもらう為。そして滅多に見せてくれない笑顔を見る為に。
最後まで通して弾き終える。自分で弾いて、聞いてみた限りではおかしなところはない。後はレンリが喜んでくれるかどうかだけだ。
そしてリヴァイアサン大祭当日。
俺の部屋に招いたレンリと二人、ピアノ椅子に腰掛け出来上がった楽譜をレンリに渡す。
「これは?」
「レンリに歌ってほしくて作ったんだ」
「そうですか」
そう言うとレンリは楽譜に目を落としメロディーを口ずさむ。
その横顔を見ているだけでも幸せだけど、本当に見たいのは…………。
「それで、この部分なんだけど……」
レンリのためのこの曲を完璧に歌ってもらう為に。
メロディーの端々に込めた曲のキモチを伝える。
「ここはこんな感じで……」
今はまだ仮に奏でている旋律。合わせた時の旋律へ思いを馳せ指を鍵盤に踊らせる。
「で、この辺のメロディーはお前の雰囲気に合わせるからその時思った通りにしてくれ……こんなところかな」
「わかりました」
どうやら納得してくれたようだったが、この後に言ったことに狼狽せずにはいられなかった。
「流石ですね。私の為にこんなに素敵な曲を作って、こんなに熱く語ってくれるなんて。流石クロウです」
賛美の言葉と一緒に微笑んだ。それはもう、綺麗な笑顔で。
おいおいおいおい……。
ダメだろう……そんな綺麗な笑顔は……。
雷に打たれたような衝撃が全身を駆け抜ける頃には我慢という言葉を忘れかけていた。
この綺麗で可愛い生き物は何だ!
いい雰囲気になって来たんだ。キス位……してもいいよな……。
でも、もしレンリが嫌だったら? 嫌われたら……俺はこれからどうすれば……。
「クロウ。お礼がしたいんですが……いいですか?」
感情の迷路に閉じ込められて逡巡していると、レンリの声が俺を連れ出してくれた。
「お礼? いいよそんなの」
「いえ。したいんです。この程度しかできませんが」
そう言うと柔らかい感触が俺の唇に触れた。レンリの唇と、重なっていた。
誰にも見られないよう。二人だけの秘密になるように楽譜で隠して。
「それじゃ、いくぞ」
「はい」
俺の弾くピアノが恋を奏で、レンリの歌が愛を紡ぐ。
二人の旋律はどこまでも街へ響き渡り、どこまでも綺麗な歌声が雪のように優しく降り注いだ。