■リヴァイアサン大祭2012『Shall We Dance?』
年に一度のリヴァイアサン大祭が起こす奇跡。その奇跡の一つが氷の宮殿――氷で出来たダンスホールだ。その奇跡に恋人達は集い、そして愛を確かめる。ライトとバーバラもまた、そんなダンスホールを訪れたカップルだった。
しかし、明るい表情のバーバラと対照的に、ライトの表情は暗い。
(「……私が相手なんて、身の程知らずもいい所ですよね」)
その思いが、彼の表情を曇らせていた。
楽団が奏でる曲は、恋人達の夜を深めていく。ダンスに身を委ね、あるいは情熱的に抱擁を交わし。
だが、ライトの動きは軽快とは言い難かった。
ダンスそのものに不慣れであることもあってか、心より楽しめていない風にも見える。
(「そういう一生懸命なところも、可愛いんだけど……」)
年上に対して失礼かな、と思わなくもない。だが、そんな彼が何より素敵だと思わなくもなくて。
「すごく上手よ」
事実、ダンスに集中し過ぎて動きは固い感があったものの、それは間違いなくて。
彼の身体に身をゆだねて囁く。
それが、失敗だった。
「あっ」
その彼女の言葉に動揺したのか、途端にステップを間違え、足を絡めてしまう。ライトの足に引っかかり、倒れるバーバラ。
間一髪、彼女を支える事が出来たものの、その心中は気まずい。
「やっぱり、私なんかがバーバラさんの相手だなんて失礼ですよね」
曲はいつの間にか終わっていた。
抱きしめた形になっていた彼女に、自虐的に言う。これで、終わり。そのつもりだった。
だが。
バーバラはライトから離れない。その胸に顔を埋め、囁く様に言う。
「嫌いなら誘わないわ。ライトは、私と一緒にいるのは嫌?」
彼女の顔は見えない。だが、その声はとても真摯で、からかっている風でもなく。
だから、ライトもまた、彼女に自分の心情を吐露した。
「バーバラさんの傍はとても居心地がいいです。でも、バーバラさんは素敵過ぎて……私には眩しすぎるんです」
それに、と続ける。
「私は、ダンス一つもまともに出来ないんですよ」
そんな自分が彼女に相応しい訳はない。そんな自身を揶揄する台詞に、だが、バーバラは首を振る。
「ダンスじゃなくても、二人で歩いていけるわ」
今この時を楽しむ事が二人には大切な事だから。
それが彼女の本心だった。
「……リヴァイアサンを見に、丘に行きませんか? それとも、森の散歩でもいかがでしょうか?」
ぽつりとライトが問う。
歩いていけるとの彼女の言葉に、ダンス以外の事をしたいと、そう解釈して。
それは、曲解だった。けど、そう言う時間もまた、二人には必要だった。
「森に行きましょう」
表情が曇ったのはどういう理由か。
だが、それも一瞬の事。次の瞬間には明るい笑顔になっていた。
森に向かうならリードして欲しい。そう、悪戯っぽく微笑んで。
「かしこまりました、お姫様」
ライトもまた、仰々しく、それに答えたのだった。
そこに、先程までの重い気持ちの彼の姿は無かった。