■リヴァイアサン大祭2012『ハニーたこ焼き……だと……!?』
「わあ……!」少し背伸びして軒を並べる店を見渡し、オデットは思わず感嘆の声を漏らした。リヴァイア大祭の日に行われるハニーバザールは、この日ならではの楽しみを求める人たちで大いに混雑していた。
「年に一度の市っスからね! ハニーバザールと言うからにゃこうでなくっちゃっスよ!」
目を輝かせているオデットの横で、スライも短く口笛を吹いた後、口角を切り上げてニヤリと笑う。
「さーて、まずはみんなへの土産っス! バンバン買うっスよ! 片っ端からっス!」
景気の良い声を上げて、スライはさっそく手近な店の商品を手に取ると、宣言通りに大瓶の蜂蜜を買い込んだ。
忙しく店から店へと飛び回り、あれもこれもと大量の商品を買い込んでいるスライに対し、オデットはもう少しじっくりとバザールの店を見物して楽しんでいた。
「うーん、美味しいですよ……!」
ハニークレープを頬張り、満足の一言。他にも何か美味しそうなものはないだろうかと視線もあっちこっちに移動して、こちらもスライに劣らず忙しい。
「うん? ……あれはちょっと面白そうですね?」
果物を蜂蜜でつけた小瓶が並ぶ店に向かおうとして、しかし途中でもっと目を引く看板を目にし、オデットはきゅっと口元を笑う形に歪めた。
「んんー。今日はこのへんでカンベンしてやるっスかね!」
財布の中身が尽きるまで土産物を買い込み、スライは得意気に鼻を鳴した。年に一度の祭とあれば、男の見栄の張りどころである。
そろそろ引き上げるかと小柄な相棒の姿を探していると、灰色の髪をふわふわと揺らしながら、オデットがこちらに駆け寄ってきた。
「おー、ちょうど良かったっス! 資金が尽き……いや、めぼしいものは買い尽くしたっスし、そろそろ帰るっスよ!」
「アニキ、その前にこれ! 面白いもの買ってきたから食べてください!」
弾むような声でそう言って、オデットが付きだしたのは……たこ焼き。しかもハニーバザールで売られているだけあって、行儀よく並ぶ丸いタコ焼きの上にかかっているのはタップリの蜂蜜で……。
「い、嫌っスよ! タコと蜂蜜って、そりゃ出会っちゃならねえ二人だったっスよ!?」
「なに言ってるんですか。アニキが片っ端からって言ったんだから、責任を取って食べてくださいよっ」
仰け反ってハニーたこ焼きから逃れようとするスライの口に、オデットが問答無用とばかり一つ突っ込む。思わずそれを噛みしめたスライは、次の瞬間、「ぐあ!」と奇声を発して身悶えた。
周囲の生地はまだ良い。ギリギリ「パンケーキと蜂蜜」だと思えないこともない。
しかしこれが「たこ焼き」であるからには、そう、中央にはヤツが鎮座しているわけで。
「生地に浸透したハニーがタコの野郎とランデブー……!」
「まだ沢山ありますから、全部食べてくださいねアニキ!」
次なる刺客を串に刺しジリジリと迫るオデットに背を向け、スライは全力で逃げ出したのだった。