■リヴァイアサン大祭2012『ケーキを作ってパーティーをしよう!』
「……何かが足りん」エプロン姿のロザリアは、二段重ねのケーキ用スポンジを前に首をひねっていた。時はリヴァイアサン大祭の夜より少し前のことである。
「ロザリア、どうしたの〜?」
同じくエプロンを着こみ、笑顔で生クリームをひたすら泡立てていたルーシーが横から声をかける。
「いや……どうもこう、物足りなさを感じてな……。せっかくのお主とのパーティなのだから、もっと何か欲しいと言うか……」
腕を組み、ロザリアは唸った。ロザリアとルーシーは、かねてより『リヴァイアサン大祭の日に、二人でケーキを作ってパーティしよう!』と約束を交わしていたのだ。ケーキ作りは順調に進んでいたのだが、ある時ふと、ロザリアが冒頭の一言を漏らしたのである。ルーシーは眉間に皺を寄せるロザリアと、彼女に睨みつけられている甘い匂いのスポンジを見つめた後、おもむろに呟いた。
「……小さい……?」
「ん? どうしたルーシー」
「ううん、あのね〜、こうして見たら、ちょっとケーキが小さいかなぁ〜、って〜……」
「それだ!!」
ロザリアは目を輝かせて叫んだ。
「お主の言で、ようやく得心がいった。このケーキに足りぬのは圧倒的質量じゃ! ……決めたぞルーシー! 妾とお主で、このケーキをもっと大きくするのじゃ! その方が楽しいに決まっておる!」
「いいわね〜♪ みんながびっくりするくらい大きくしたいわね〜♪」
ルーシーが笑顔で頷き、二人の挑戦が始まった。追加のスポンジを矢継ぎ早にに焼き上げ、生クリームを塗りたくってはどんどん上に重ねていく。気がつくと、最初は二段重ねであったはずのケーキは、天井付近まで届くほどの巨大さに成長していた。
「すご〜い! こんな大きなケーキ見るの初めて〜♪」
「そうであろう! 妾もだ!」
手を叩いて喜ぶルーシーの横で、ロザリアが満足気に胸を張る。
「まあ、妾達が力を合わせればざっとこんなものよな!」
「そうね〜♪ わたし、パーティすっごく楽しみ……」
そこでふと、二人は気づいた。ここは屋内のはずなのに、頭上に影が差している。慌てて頭上に目をやった時には既に遅かった。バランスを崩した巨大ケーキのスポンジが、苺が、生クリームが、スローモーションで二人に目掛けて降り注ぎ――。
どんがらがっしゃん!
「うっ、ぷぷっ!! な、生クリームまみれに!?」
「あら〜、崩れちゃったわね〜」
ケーキの残骸から這い出したロザリアとルーシーは、改めて、互いを見つめ合う。
髪の毛と顔とエプロンを、生クリームと苺とスポンジでしっちゃかめっちゃかにしたその姿。
「うっ……ぷぷぷ……わはははは!」
「うふふ〜、あはははは〜♪」
二人は互いの愉快な様子に、思わず声を上げて笑い出す。
それは、大祭の夜には少し早い時間のことだったけど。
彼女達にとっては、忘れられない思い出が一つ出来た。