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2人でリヴァイアサン大祭

ほころぶ蕾・デジレ
蕾の守り手・セヴラン

■リヴァイアサン大祭2012『さむい、あたたか、ちかい、とおい』

「やー、こりゃ凄い」
 日も落ちた時刻、とある大樹の根元。湯気立つマグカップを片手に腰を下ろしたセヴランが声を上げる。
 今日はリヴァイアサン大祭。一年ぶりにめぐり来た、星霊リヴァイアサンが空を泳ぐ日だった。
「一年に一度、この日だけか……。物語みたいだわな」
「うん……、凄い。綺麗、だね」
 陽気な声にポツリと返すのは、隣に座るデジレ。ガーディアンたるセヴランのマスターだ。彼女もまた温かなマグカップを持ち、彼と同様に天を見上げた。
 長く美しい星霊が天を悠々と横切って行く。その姿を煌めく星々が照らす。降り続く雪は夜空を飾り、そのまま地上へと落ちて積もる。
 ほう、と吐きだした感嘆の息は白い。はらりと舞った雪の一片が湯気に消えた。
「……ん」
 何かに気付いたセヴランの視線が天から逸れる。
「ほら、もっとこっちに来いや」
 不意に、デジレの肩へ手が置かれた。手に持つカップの中身がこぼれぬよう気を使いつつ、優しく体を引き寄せる。
「あ……」
 寄り添う形になった彼女をセヴランの大きな外套が包み込んだ。
 星霊から目を離したデジレが見たものは、己と彼の二人を共に雪から守るコート、肩に添えられた力強い彼の手、そして先程よりも近づいた彼の存在。
「寒くないか?」
「うん……」
 微笑みながら問われた声に、小さいながらも頷く。それに安心したのかセヴランは再び空へと顔を向けた。
 しかしデジレの方は顔を上げられなかった。
(「……あったかい」)
 冬の衣服は生地が厚い。互いの体温が早々伝わる訳がない。けれど、触れた個所から彼の体の温かさが感じ取れるような気がして。……体が火照って。
 赤い頬に気付かれぬよう、デジレは俯き加減のままカップに口をつけた。
「今日は皆、あのリヴァイアサンに平和を祈ってるんだろうな」
 そんなマスターに気付かぬまま、星霊を目で追うセヴランが呟く。
「……うん」
 数口飲んで心を落ち着けて、それからデジレはそろりと顔を上げた。けれど今度見ているのはリヴァイアサンではなく。
(「祈り……わたしの祈りは、願いは、セヴが幸せになること」)
 今日はそういう日だ。大切な人と過ごす、絆を確かめ合う大祭。一緒に平和を祈る日。
 この絆は、ずっと続くのだろうか。たとえ離れても続くのだろうか。セヴランの横顔を静かに見つめながら、そんなことを考える。
 彼女の瞳の中に揺らめくのは、恋心。彼の心に同じ想いは宿っていないかもしれないけれど。
(「だけど、今は、わたし、幸せで居て、良い?」)
 空を見やるセヴランを邪魔せぬよう、そっと、そっとデジレは想い人の顔を見つめ続けた。
 今確かにある絆と温もりを心に刻むかのように。

 寒さから守るため肩に置かれた手が彼女から離れる事は無かった。
イラストレーター名:田舎焼