■リヴァイアサン大祭2012『それは雪よりもなお白く』
神父ネイムは困惑していた。「わー、ウェディングドレスだ。いいなぁ」
飾られた純白のウェディングドレスに見惚れ、ショーウィンドウに張り付く少女に。
今宵はリヴァイアサン大祭。純白の雪が舞い降る街並み、純白のウェディングドレスに見惚れる純白の帽子と純白の外套を纏った恋人フェリス。
(「こ、これは……これはどう言うことなのだ?」)
ネイムは首から下げられたロザリオを震える手で握り締め、視線を宙に泳がせた。
法衣姿でロザリオを握り締めて天を仰ぐ姿は、まるで天を泳ぐ星霊リヴァイアサンに祈りを捧げているよう――実際は星霊ではなく、傍らの少女に真意を尋ねたいだけだが。
フェリスはそんなネイムを気にする事なく、ウェディングドレスを前に瞳をきらきら輝かせて「綺麗ー」と無邪気にはしゃぐ。
(「き、着たいのか? 着せて欲しいと、言うのか…?」)
そう、それはつまり、
(「つ、つまり……け、け、結婚したいと言うことなのか? ど、どうなのだ?」)
屈強そうな筋肉隆々の肉体を法衣で包み、悪そうな顔をしたこのネイム、実は純情なのだ。
(「新たな一歩を踏み出そうと言うのか? い、いや彼女はまだ19歳だ。そう言うのは早……そう、まだ早い!」)
世間に結婚が認められる年齢は20歳。19歳のフェリスにはまだ早い。そう自分に言い聞かせて落ち着こうとする純情なネイム。目元はサングラスで隠せているが、動揺と興奮にうっすら染まる頬は隠せない。
サングラス越しに、ちらりとフェリスを見る。相変わらずウェディングドレスに釘付けだ。
(「彼女の誕生日は……」)
そこまで考えて思考がホワイトアウトした。
「ファーザー、どうしたの?」
ふいにかけられた声がネイムを現実へと連れ戻す。
ネイムの思考を知ってか知らずか、きょとんと首を傾げたフェリスがネイムの顔を見上げていた。
「女の子なら憧れるよねー、これ」
「お、おう。そうか……」
にこっと笑いかけたフェリスは、どこか挙動不審なネイムを見て何か考える素振りを見せる。
(「憧れる……つ、つまり、き、着たいのか? け、けけ、結婚したいと……?」)
再び思考の迷路に足を踏み入れ出したネイムの耳元に、背伸びをしたフェリス何事か囁き、にっこりと笑った。
「お、おい!?」
何を言われたのかは、サングラスでは隠し切れないくらいに真っ赤になったネイムだけが知るのだった。