■リヴァイアサン大祭2012『夢現。遠く、近い呼び声』
風の無い静かな夜。町の外れで二人きり、雪の降る夜空を眺める
(「こうして並んで座って景色を眺める時間など、最近は無かったな」)
グレンは隣のノアに顔を向ける。
視線に気付いた青年はゆっくりと微笑む。
ノアの金の髪が、月明かりに照らされ幻想的にきらめく。
「何かこうやって、誰もいない場所で二人でのんびりするなんて久しぶりだねー。ふふ、今日はいっぱい話をしようと思ってるんだよ!」
他には誰もいない。
変化といえるものは、音もなく振り続ける雪だけ。
(「……むむ、眠い…………」)
話題はいくらでも、汲めども尽きぬ泉のように溢れているのに、睡魔が容赦なくノアを襲う。
(「まだだめ……私、まだ話したい事が沢山あるんだから……」)
「……ノア? ――眠ってしまったのか」
揺り起こそう。
そう考えもしたものの、本当に幸せそうな寝顔のノアを見ているとそれも躊躇われる。
「……ノア」
小声で数度、名を呼ぶ。
肩に感じるのは、青年の重みとほのかな体のぬくもり。
(「この温もりが」)
愛しい。
この世界で、この人間が一番愛おしい
恋人とも、友人とも、主従の関係とも、どれにも当てはまらない。
簡単に言葉にしてしまえるようなものでは、ない。
(「もはや、俺という人間を構成するものの一つなのだろう」)
少しでも欠けたら、自分でなくなってしまう。
そんな、半身のような存在なのだろう。
(「それを聞かせたら、ノアはどのような反応をするのだろうか」)
「う、ん……」
まどろみの中で、ノアはグレンを感じていた
(「何かあったかい。グレンの匂いがする」)
大好きなぬくもり。大好きな匂い。
名前を呼んでいる。
(「ノア、とグレンに呼ばれる度、私はとても幸せな気分になるんだ。――貴方が、私がここに存在する理由の全てなんだよ」)
もっと呼んで欲しい。
夢の中だけではなく、現実でも。
もっと。
たくさん
(「目が覚めたら、一番に名前を呼んでね。私の大切な、グレン」)
「…………」
少しでも寒くないようにとマントでノアの体を包み込み、額に優しく口付けをする。
(「良い夢を」)
起きたらどんな夢を見ていたのか聞かせてもらおうと、幸せな気持ちに浸りながら。
グレンはずっと、ノアの寝顔を眺めるのだった。