■リヴァイアサン大祭2012『Le commencement d*un conte.』
色とりどりの灯りと静かに舞い振る雪が夜空を彩り、星霊リヴァイアサンがゆったりと舞う。楽しげな音楽と楽しげな声が響く夜。「ねぇシャーリィ。おはなしを聞かせて」
アーデルハイドは暖かいベッドに横たわり、にこっと可愛らしい笑顔を広げる。
「そうだな……じゃあ、リヴァイアサンの御噺をしよう」
ベッドの横の椅子に座っていたシャポリエが口を開いた。今日一日お祭りで楽しそうにはしゃぎ回っていた愛娘を思い出しては緩む頬を押さえて。
取り出した本は、小さな作家である義理の息子が紡いだ物語。
アーデルハイドはその本の表紙を見た瞬間、
「ヴィルお兄ちゃんが書いた物語はどんな夢を観せてくれるの?」
期待に瞳を輝かせて、じっとシャポリエを見つめた。
シャポリエの優しい声が、優しく不思議な言葉を紡ぐ。
その心地良い声と不思議な言葉達が織り成す不思議な世界は、アーデルハイドを眠りへと誘った。
「嗚呼アリス、今日はそろそろおやすみ」
うとうととまどろむアーデルハイドを視界に映したシャポリエが本を静かに閉じる。
「まだ……寝たくないよ……楽しかった今日に、さよならしたくない」
アーデルハイドはシャポリエの袖口を掴んだ。
「うン? ……はは、今夜ばかりは御姫様も我儘だァな?」
シャポリエは困ったように苦笑する。
「シャーリィと、12時の鐘を聴きたいんだ」
袖口を掴む小さな手に精一杯の力を込めて、じっと見上げるアーデルハイド。
「12時の鐘を聞いたら魔法は解けちゃうンだぞ――解けても、俺はずッと一緒だけどね」
シャポリエは左手の袖口を掴むアーデルハイドの小さな手を、右手で優しく包む。「ランチの其の時まで寄り添おう」と優しく誓って。
「ほん、とう? 魔法が解けてもずっと一緒、なんだ、ね……うれしい、な、ぼくうれしい……」
アーデルハイドの瞼はゆっくりと閉じられる。
「おやすみなさい、シャーリィ……夢の国で待っているから……追いかけてきて、ね……」
眠気に必死に抗って、寝る前の挨拶。言い終わると静かな寝息が聞こえてきた。
シャポリエはアーデルハイドの小さな手を包んでいた右手をそっと離す。そのまま彼女の頭に移動させ、優しく撫でた。
「おやすみ御姫様、夢の国でも攫うから如何ぞ覚悟していて」